“妻”はふたり、それぞれに子供も…「自然とそうなっちゃった」 46歳夫が「二重家庭」を築きあげるまで

  • ブックマーク

“バリキャリ”舞耶さん

 彼女は彼の海外での話なども身を乗り出して聞いてくれた。妹はさらっと「私、明日早いから帰るね」と去っていったが、ふたりはそれを気にしないほど話に熱中していた。ところがそれからわずか2週間後、貞則さんはとある女性と出会う。本人によれば「出会ってしまった」という感じだそうだ。それが4歳下の舞耶さんだ。ひとりでぶらっと入ったバーで隣にいたのが彼女だった。

「雰囲気がね、すっくりとひとりで楽しんでいるから声をかけないでねオーラが漂っていてかっこよかった。外国によくいるような、自立した女という感じでした。でもきっと話しかけたらはねつけるわけではないという気がしたので、話しかけてみたんです。もしよかったら、一杯ごちそうさせてくださいって。彼女はチラリと僕を見て、好きな映画は何? と尋ねてきた。僕が昔のイタリア映画を答えると、彼女は『いただくわ』って。そこから映画の話に花が咲きました」

 彼女は外資系の金融関係企業に勤める“バリキャリ”だった。年俸は自分で決めて申請、それが受けいられるだけの仕事をしなければいけない。常に緊張しているから、こういうバーでひとり飲む時間がたまには必要なのと笑った。笑うと急に童顔に見え、貞則さんは引きつけられた。だが、こういう女性が自分を好きになってくれるとは思えなかった。

「だけどわからないものですよね。翌日、彼女から連絡が来て食事をし、いきなり彼女の部屋に連れて行かれて男女の関係になってしまった。こんなことってあるのかと思いました。少し地面から浮いて歩いているような気がしたくらい」

1日差で聞かされた「まさか」の報告

 そんなに浮かれた状態なのに、彼はなぜか茉利奈さんにはきちんと連絡を入れている。週末には会う約束をした。どちらの女性とどうなるのか、自分でもわからなかった。両方つなぎとめておきたいという気持ちがあったわけではない。この妙な流れに逆らう気になれなかっただけだ。

「そもそも僕は長くつきあった経験もないし、本気で女性と向きあったこともない。人生の伴侶がどうしてもその時点でほしかったわけでもない。ただ、茉利奈は妹が紹介してくれた人だし、なんとなくつきあいが始まってしまった感じがあって、それを拒否する理由もなかった。舞耶は僕の世界にたまたま降りてきた天使で、先の見通しなんてまったくたたない存在。そんな気がしていたんです」

 彼自身は、女性ふたりの間を行き来しているつもりもなかった。それから1ヶ月半ほどたったある日、舞耶さんに言われた。

「私、妊娠してる」

 そして翌日、茉利奈さんに言われた。

「妊娠してる」

 それを聞いても、まだ貞則さんは慌てたり焦ったりすることはなかった。現実味のない言葉を受け止めるのが精一杯だった。

 ***

 こうしてはじまった貞則さんの二重家庭。だが【後編】では、そこにほころびも見え始めて…?

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。