「麻薬取締官」を騙った“チンピラ密売人”に惚れて…美貌の女子大生はなぜ“シャブ地獄”へと堕ちたのか

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「何をやっても“にせもの”です」

 Aの治療が落ち着いた段階で、私はAと女を覚醒剤所持事実で逮捕した。Aはこれまでの経緯についてこう語った。

「若かったせいもあって、駅で彼女を見て一目ぼれしたんです。尾行してバイト先のバーを突き止めました。そして瀬戸さんを装って彼女を騙し、シャブを教えました。瀬戸さんの名前を使ったのは、外見が少しオレに似ている気がして。それに、実在する麻薬取締官なので、照会されてもバレないだろうと思ったからです……。2ヵ月留守にしたのはシャブの借金で追われて,地元の元カノのところへ匿ってもらっていたんです。彼女には拘置所から手紙を出して詫びを入れ、出所してから会いに行って許してもらいました。実はオレ、本気で惚れていたんです。出所した後、いまはある組織に所属しています。ですが、小分けと配達ばかりさせられてまともな金をくれません。それで何回か商品に手を付けてしまい、こんなざまに……。自分はヤクザにもシャブ屋にも向いていません。何をやっても“にせもの”です」

 一方、彼女はこう語った。

「土下座して涙ながらに謝られているうちに、なんだか可愛そうになって許してしまいました。そしたら、いつのまにかこうなってしまって……。母からも叔母からも絶縁されています。大学も卒業目前だったのに、なんでこうなったのだろう。時々そう考えるけど,もう仕方がないですよね……」

 我々は薬物事件を通じて多くの悲劇を見てきた。この男女のドラマもそのひとつだろう。シャブが絡むとこうなる。男も傷つくが、女はもっと傷つく。実に悲しい世界だ。

第1回【「潜入捜査で半月ほど留守にするけど心配するな」…美人女子大生をダマした「ニセ麻薬取締官」の呆れた手口】では、「ニセ取締官」がどのように女子大生と知り合い、恋仲となったかが明かされている。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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