「潜入捜査で半月ほど留守にするけど心配するな」…美人女子大生をダマした「ニセ麻薬取締官」の呆れた手口

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「コラッ、にせもの!! 潜入捜査は終わったのか?」

 それから10日ほど経った頃、彼女からか細い声で電話があった。

「いま、彼から電話がありました。“ごめんな。捜査はもう少しかかるけど、明日の夜、お店にバックを取りに行く。おまえに会いたい”って。私、どうすればいいでしょうか……」

 私は「あなたが店に行く必要はない、我々に任せなさい」と伝え、逮捕状を手に監視体制を敷いた。すると翌日の午後9時頃に、大型バイクが店の前を横切った。バイクはゆっくり旋回してからバーの手前で停車。Aはヘルメットを脱いでバーに向かう。

――来たな、やるぞ!

 私は「コラッ、にせもの! まがいもの! 潜入捜査は終わったのか?」と声をかけた。男は一瞬たじろいだが、「ワー!!」と叫びながら走り出す。そして、付近に停めてあった自転車を何台かなぎ倒しながら大通りに逃れようとした。しかし、周辺を固めていた屈強な捜査員に「やかましい、この“にせもの”が」と一喝され、簡単に取り押さえられたのだった。

第2回【「麻薬取締官」を騙った“チンピラ密売人”に惚れて…美貌の女子大生はなぜ“シャブ地獄”へと堕ちたのか】では、「ニセ取締官」と恋人が直面したあまりにも哀しいドラマについて詳述する。

瀬戸晴海(せと はるうみ)
元厚生労働省麻薬取締部部長。1956年、福岡県生まれ。明治薬科大学薬学部卒。80年に厚生省麻薬取締官事務所(当時)に採用。九州部長などを歴任し、2014年に関東信越厚生局麻薬取締部部長に就任。18年3月に退官。現在は、国際麻薬情報フォーラムで薬物問題の調査研究に従事している。著書に『マトリ 厚生労働省麻薬取締官』、『スマホで薬物を買う子どもたち』(ともに新潮新書)、『ナルコスの戦後史 ドラッグが繋ぐ金と暴力の世界地図』(講談社+α新書)など。

デイリー新潮編集部

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