「潜入捜査で半月ほど留守にするけど心配するな」…美人女子大生をダマした「ニセ麻薬取締官」の呆れた手口

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「緊急事態です。ご協力願いたい」

 突然の電話から数日後、彼女と叔母が麻薬取締部を訪ねてきた。彼女は“女優”と言われても頷いてしまうほどしなやかで美しく、性格も穏やかそうに見えた。「私、騙されたのですか。なんでだろう、お金のためかな……」と彼女はうな垂れながら男との関係をこう振り返った。

「もう1年くらい前になるけど、彼がバーに現れたんです。開店直後で、店にいたのは私ひとり。彼は私にちらっと手帳を見せながら“麻薬取締官です。1時間ほどお店の前にバイクを停めさせてください。詳しくはお話できませんが、緊急事態が発生しています。ご協力願いたい”とだけ言うと、慌ただしく出て行きました。――それから1週間後、彼がまた店に顔を出して“この間はありがとう! これ、お礼です”って菓子折りをくれたんですね。そして、“そうそう、数日後の晩に麻薬取締官のドキュメンタリー番組が放送される。密着取材を断れなくてね。オレは出ないけど、よかったら観てほしい”とさり気なく口にして帰って行った。上着の内側には拳銃ホルダー(※ショルダーホルスター)がぶら下がっていて、まるで映画みたいで見惚れてしまったんです」

 実際に番組は放映され、彼女は叔母と一緒に観て感激したという。(※おそらく男は番組予告を観てそれらしく振舞ったのだろう)。

 その後、男はちょくちょく店に顔を出すようになり、2人は交際を始める。彼女は男に半年で計150万円を貸しており、頼まれて携帯電話まで契約したという。

「麻薬取締官になりたかった…憧れていた」

 男の正体はすぐに割れた。彼女が携帯電話に男の顔写真を保存していたのだ。結局、男は、私が3年前に逮捕したシャブ屋のパシリの「A(当時25歳)」だった。短期だが実刑に行っている。取調中に「オレ、麻薬取締官になりかったんだ。いまでも憧れている……」と執拗に口にしていた記憶がある。この男が出所後、私の名を騙って彼女をだましていたのだ。

 さて、どうしたものか? “官名詐称罪”か“公記号偽造罪”での立証を目指すか、それとも詐欺罪を検討するか。検察や警察と相談しようと考えていた矢先、叔母がAのバッグから覚醒剤数グラムと使用器具、そして、小分けするための道具を発見した。バッグはAの忘れもので、Aに頼まれてそのまま店に保管していたという。

 我々は早速、差押許可状を取得して、これらを差し押さえた。鑑定の結果、ブツは“覚醒剤塩酸フェニルメチルアミノプロパン”と発覚。パイプにも覚醒剤が付着していた。

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