「潜入捜査で半月ほど留守にするけど心配するな」…美人女子大生をダマした「ニセ麻薬取締官」の呆れた手口

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「ごめんね。職場に電話しちゃった」

 午後9時を回っていただろうか。私のデスクに外線電話がかかってきた。当時の私は、現役の麻薬取締官だった。

「ごめんね。職場に電話しちゃった。どうして電話をくれないの。携帯も繋がらないし、メールの返信もない。もう2ヵ月よ!」

――ちょっと待って。どなたですか?

「私よ、無事なの、心配したんだから。……でも、なんか声の感じも話し方も違うね」

 間違いなく私を指名した電話だった。しかし、彼女の言っていることがよく分からない。記憶を喚起してみたが、心当たりはない。「人違いじゃないですか?」と言いつつ私の名前を伝えてみたものの、「気まずいの? だったら折り返してよ!」と彼女は少しむきになった。【瀬戸晴海/元厚生労働省麻薬取締部部長】

(全2回の第1回)

 詳しく聴いてみると、彼女は有名女子大の4年生。叔母が経営するバーでバイト中に知り合った“麻薬取締官”と交際中だという。そして、その男がなんと私と同姓同名らしい。

「潜入捜査に入るので連絡ができなくなる。半月で終わるから心配するな。何があっても職場には電話するなよ。オレの存在自体が極秘なんだ……」

 男はこう言って出て行った。それから2ヵ月――。男から連絡はない。それで心配になって、職場に電話したというのだった。

「にせものか! よりによって私を騙るとは!」と腹が立った。だが、意外に思われるかもしれないが、捜査員のにせものが現れることは少なくない。つい先日も警察官になりすまして職務質問した、大阪に住む警察マニアの男が逮捕されている。

 不思議なことに、“偽麻薬取締官”も10年に1度ほどの割合で現れる。“にせもの”はほとんどがマニアか詐欺師だ。ちなみに、この男は、小者(こしゃ)なシャブ屋で詐欺師だった。男は私に逮捕されるが、結局、辛い思いをしたのは、騙された挙句にシャブを教えられた恋人女性だけだったと思えてならない。悲しい話になるが、この物語を少し紹介しよう。

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