「阿部新監督」の初年を優勝で飾れるか 元・巨人「一軍戦略コーチ」が提案するチーム復活の“道しるべ”とは

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阿部慎之助新監督に求められるもの

 2024年シーズンの巨人は、原さんに代わって阿部慎之助が新監督となってチームの指揮を執ることになった。

 彼は捕手出身ということもあり、かつての野村克也さんや森祇晶さんのような采配をしてくれるのではないかという見方をしている。捕手の目線に立って、「相手が何をされたら嫌がるのか」をとことん考えた野球をしてくることが十分考えられる。

 現役引退してからの阿部は、巨人の二軍監督やヘッドコーチなどを務め、原さんの野球を間近で見てきた。いいところもあれば、悪いところもあったと熟知しているはずだし、何よりも原監督の1勝目から1000勝目までを、現役選手として見てきた唯一の人物である。貴重な経験を、これからの巨人の野球にどう生かしていくのか注目される。

 ここ数年の巨人は、中継ぎ以降の投手に脆さがあったが、新監督に就任してすぐにオリックスの近藤大亮やソフトバンクの高橋礼、泉圭輔らを補強。ドラフトでもあえて社会人出身の投手を多く獲った。これだけ見ても、「攻撃よりも守り」を重視した野球をしてくるのではないかと見ている。

 野球は点取りゲームである一方、相手チームをゼロに抑えれば負けることはない。近年のプロ野球は打高投低ではなく、「投高打低」の傾向が強い。

 パ・リーグはそれが顕著に表れていて、2023年シーズンで3割を打ったのは、首位打者となったオリックスの頓宮裕真とソフトバンクの近藤健介の2人だけ。

 本塁打は、本塁打王となったロッテのグレゴリー・ポランコ、楽天の浅村栄斗、ソフトバンクの近藤がそれぞれ26本ずつだった。裏を返せば、それだけ投手のレベルが上がっているというわけだ。

 だからこそ投手力を中心とした守りから入る野球で点を取っていく、というスタイルの野球に勝つチャンスがあると読んでいる。

就任1年目の監督は優勝するチャンスが高い?

 その証拠に、阿部新監督は監督就任直後に、打撃力の高い中田翔、ベテランの中島宏之、2022年シーズンで23本塁打を放ったアダム・ウォーカーを放出し、投手力強化に重点を置いた補強をしている。

 この点は大いに評価したいところであるが、それでも昨年リーグ優勝、日本一を果たした阪神の壁は高い。岡田監督が昨年に引き続き、投手力を中心とした守りの野球をやってくる限り、阪神の強さは続くだろうと思われる。

 一方でこんな期待もある。「就任1年目の監督は優勝するチャンスが高い」ということだ。平成以降でいえば、西武の伊原春樹さん(2002年)、中日の落合博満さん(2004年)、日本ハムの栗山英樹さん(2012年)、ソフトバンクの工藤公康さん(2015年)、オリックスの中嶋聡(2021年)、そして昨年の阪神の岡田さんなどである。

 そして原さんも監督1年目の2002年、さらに3度目の監督復帰となった2019年にも優勝を果たしている。

 こうした傾向があるのは、選手もフレッシュな気持ちでプレーできるということ、「新監督に認められたい」という思いで、はつらつとプレーすることなどが挙げられるが、阿部新監督にもその期待は当然ある。

 今年は思い切った采配で、ファンを楽しませてくれるような野球をしてほしいと期待している。

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 この記事の前編では、同じく『だから、野球は難しい』(扶桑社新書)より、近ごろ「万年Bクラス」と呼ばれていたチームが相次いで“躍進”を遂げた背景を解説している。

だから、野球は難しい

書籍を購入する『だから、野球は難しい』(橋上秀樹 著、扶桑社)(他の写真を見る

橋上秀樹
1965年、千葉県船橋市出身。1983年ドラフト3位でヤクルトに捕手として入団。野村克也氏がヤクルトに就任して以降、外野手として一軍に定着。92年、93年、95年のヤクルトのセ・リーグ優勝に貢献した。2005年に新設された東北楽天の二軍守備走塁コーチに就任し、シーズン途中からは一軍外野守備コーチに。07年から3年間、野村克也監督の下でヘッドコーチを務めた。2012年からは巨人の一軍戦略コーチに就任。巨人の3連覇に貢献した。15年から楽天の一軍ヘッドコーチ、16年からは西武の一軍野手総合コーチ、一軍作戦コーチを務め、18年の西武のパ・リーグ優勝に大きく貢献した。19年は現役を過ごしたヤクルトの二軍野手総合コーチを務め、21年からは新潟アルビレックス・ベースボール・クラブの監督を務めている。

デイリー新潮編集部

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