「大宅文庫」でケタ違いに検索された記事は「時の総理を追い詰めた歴史的レポート」…では、ここに来て“激減”しているのはどんな記事か?

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コロナ禍の社会の実態を反映

 最近では、こんなトップアスリートの名前も。

「大谷翔平さんの妻・真美子さんが過去に登場していた雑誌については、結婚発表の直後から多くの方が調べに来られました。結婚したり、犯罪を起こしたりすると、その人物の過去記事が検索されがちです。芸能人が逮捕された後、過去にイニシャルでその件に触れていた『実話ナックルズ』の記事に検索が殺到することもあります」

 近年では“新型コロナウイルス”に関する記事の多さは別格だという。同館では2020年1月の最初期の報道から分類を開始し、2024年3月末までに7000件を超える記事を収録。今年6月には『大宅壮一文庫に見るコロナ・パンデミック』という雑誌記事索引目録を刊行した。

「もう本当に大混乱だったんだなということが、目録に目を通すとよく分かります。新聞だと真面目な記事だけになりがちですが、雑誌には、たとえばコロナ禍における歌舞伎町の状況を取材した記事も載っている。やはり、雑誌じゃないと分からない部分もきっとあると思っています。テーマによっては、同じ週に発売された雑誌でも論調が全く異なることがあって、それも興味深いですね。索引作成業務にあたっているので、正反対の論調の記事も同時に見ることになります。そうすると、自分がどっちの立場であっても、一歩立ち止まって考える。そんなきっかけをもらえます。最終的に自分がどう考えるかは自由ですが、考えるきっかけをもらえる意味で、雑誌はとてもありがたい存在。それを常日頃から感じられるのは、この仕事ならではの醍醐味ですね」

激減した「事件記事」

 雑誌は時代を映し出すメディアではあるが、近年は刊行部数の減少や、休刊・廃刊が続いている。その影響か、記事の内容にも変化が生まれているという。雑誌業界が活況だった頃、特に週刊誌には事件記事が頻繁に掲載されていたが、「近年は激減している」そうだ。

「昔は世間を騒がせる殺人事件が起きたら、まずはひと通りの雑誌に記事が出て、それから、後追い記事も必ず掲載された。さらに裁判が始まったら続報を打つことも。ひとつの事件をめぐって、そうしたサイクルがあったので記事数も多かったんですが、いまは本当に少なくなりましたね。今年起きた“那須2遺体事件”についての記事も、びっくりするぐらい少ないですよ。ウェブの記事は多いのに、当館で索引づけされた雑誌記事は、わずか12件です(2024年5月当時)。1981年に起きたロス疑惑の関連記事が1589件なので、それと比べると時代が変わったな、と感じます。雑誌からネットニュースへと事件記事の掲載媒体が移り替わり、紙の雑誌は高齢者が興味を持つような記事が増えました。ですが、若い読者を育てるために出版社がまだできることはあるのではないかと感じています」

 大宅壮一文庫では、落ち込み気味の雑誌業界を盛り上げようと、個人的に「記事索引ランキング」などを冊子にまとめ、さまざまなイベントで配布している。

「今は特に週刊誌に対する当たりが厳しいです。確かに週刊誌に載っている記事が全部良質だとも思わないし、誤報もあれば、飛ばし記事もある。でも、それを含めての雑誌文化で、読者は雑多な情報を得ながら、現実を読み解くスキルを磨いてきた面があるのではないでしょうか。雑誌を読む楽しさというのはコスパやタイパとは対極にあります。タイパを重視されている方は、雑誌を一冊読む時間がなかなかないんだろうなとは思うんです。が、雑誌の面白さを知るきっかけがないだけかもしれない。そのきっかけをなんとか少しでも作れれば、若い方に“やっぱり雑誌は面白い”と思ってもらえれば。その可能性は0じゃないと思って、イベントで冊子を配ったりしています。雑誌の記事がこんなに面白いんだ、っていうことが少しでも広まったら嬉しいですね」

第1回【雑誌の殿堂「大宅文庫」が“グーグルを先取りした”と称される理由…なぜ大宅壮一は「つまらない記事」の所蔵にこだわったのか】では、ネット検索の核心を見抜いていた大宅壮一の慧眼と、大宅文庫の凄まじいまでのこだわりを紹介している。

高橋ユキ(たかはし・ゆき)
ノンフィクションライター。福岡県出身。2006年『霞っ子クラブ 娘たちの裁判傍聴記』でデビュー。裁判傍聴を中心に事件記事を執筆。著書に『木嶋佳苗劇場』(共著)、『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』、『逃げるが勝ち 脱走犯たちの告白』など。

デイリー新潮編集部

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