雑誌の殿堂「大宅文庫」が“グーグルを先取りした”と称される理由…なぜ大宅壮一は「つまらない記事」の所蔵にこだわったのか

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検索に難儀するアイドルグループとは

 一方、人名検索で難儀するのが「嵐」だという。天候についての調べ物ではなく、アイドルグループの嵐を探す時、スマホで「嵐」と検索しても、目的の資料にはなかなか辿り着けない。だが、大宅文庫の端末を用いると、「“人物検索”で“嵐”と入力すれば、グループの記事だけ抜いてくることが可能」とのこと。個別のメンバー名も索引に紐づけられており、労せずして記事を探すことができるようになっている。

「同じ意味だけど、言い方が異なるものは“イコールキーワード”として、どちらも引けるようにしています。ユニクロとファーストリテイリング、ユニバーサルスタジオジャパンとUSJ、パクチーとコリアンダー、シャンツァイや香菜などです。特にファーストリテイリングとユニクロ、東京ディズニーランドとオリエンタルランドの関係に言えますが、経済記事だと会社名を、消費者目線の記事だとブランド名を用いる場合が多いです。たとえば“フードアンドライフカンパニーズ”で引くと日経ビジネスなどの記事が出てきて、逆に“スシロー”で引くと、消費者目線の記事が出る、と。そうした工夫をしながら索引に振り分けています」

 2024年現在、大宅文庫が登録している索引総数は742万件にのぼる。18人のスタッフが約240誌から日々、索引を作成し、年間約11万件ずつ増加している。記事の内容にかかわらず、とにかく索引を作成するのがポリシーだ。これは生前の大宅壮一の言葉が大きく影響している。

「アーカイブ機能」と「検索機能」

 雑誌の数が増え、手作業でカードに索引を書き込むことに疲弊したスタッフが大宅壮一にこんな提案をしたという。「つまらない記事は省いて、重要なものだけ索引を作成するようにしたらどうでしょう?」。大宅はこう返した。

「 重要か重要ではないかは誰がどうして決めるのか」

 記事を選別するのではなく全てを網羅すること。見出しと記事を紐づけるための索引の工夫。この2つは「アーカイブ機能」と「検索機能」という、インターネットの重要な機能を先取りしている。

「1960年代にこれを言えたのは本当にすごいと思いますし、私も肝に銘じながら日々業務にあたっています。スマホを通じて膨大な情報に接することができる現在、雑誌を読むのは時間の無駄だと思われる方もいるかもしれません。しかし、様々な雑誌に掲載された、一見無関係に思われた複数の記事が、ピピっと繋がって意味を持つ瞬間があるんですね。あの記事に書かれていたのは、実はこういうことだったのか、というような。それが雑誌の本当に面白いところだと私は思っています。タイパやコスパとは対極の存在で、ある意味、無駄の塊かもしれませんが、それゆえにとても面白い」

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