雑誌の殿堂「大宅文庫」が“グーグルを先取りした”と称される理由…なぜ大宅壮一は「つまらない記事」の所蔵にこだわったのか

国内 社会

  • ブックマーク

お目当ての資料がすんなりとヒット

 筆者が取材をして、記事を書く際、資料収集は必須の作業だ。過去の新聞記事や雑誌記事、書籍など、あらゆる資料を集めて目を通す。書籍か新聞記事か、はたまた雑誌の記事か、非公式な資料か、いつ世に出たものか……。種類によって探し方も異なり、なかなか骨が折れる作業ではある。

 たとえば、戦後まもない時期に、国鉄総裁が轢死体となって発見された「下山事件」についての資料を探すとしよう。国立国会図書館の資料検索で「下山事件」と入力すれば、所蔵された書籍や雑誌のなかで該当するものがどれくらいあるか把握できる。だが、この方法では書名や記事のタイトルに「下山事件」という言葉が入っていないものは除外されてしまう。つまり、亡くなった国鉄総裁の名前である「下山定則」など、別のキーワードで探す手間が生じるため、コツが必要な作業となる。

 その点、大宅文庫での資料探しでは、この煩わしさから解放される。大宅文庫では、雑誌に収録されている記事ひとつひとつをスタッフが読み込み、実際の内容に応じてインデックス化(索引付け)しているからだ。タイトルに「下山事件」という言葉が含まれなくても、記事で下山事件を取り上げていれば、「下山事件」の記事として“索引”に記載される。そのため、お目当ての資料がすんなりとヒットするのだ。索引については、もともと所蔵資料をカードで分類していた「大宅式分類法」が受け継がれ、少しずつ改良を重ねているという。

「現在も刊行されている雑誌ごとに担当者がおり、スタッフそれぞれが記事を読みながら索引付けしています。たとえば『週刊新潮』の場合、特集記事だけで1冊につき50件ほど、連載コラムを含めるとおよそ70件を索引登録します。『週刊文春』も同じくらいで、女性週刊誌は総合週刊誌よりも記事数が少ないため40件台でしょうか。それを毎週登録しているわけです」

実話誌の小さな記事が重要なことも

 大宅文庫には「1ページ以上の記事は索引登録する」という基準があるのだというが、それ以下の小さい記事でも、小林さんは索引登録することがある。

「私は一般週刊誌のほかに、『実話ナックルズ』や『週刊実話』といった、いわゆる実話誌を担当することがすごく多いのですが、そういった雑誌に載っている小さな記事ってすごく重要だったりするんです。いま私が読んだ、3行情報レベルの記事が、まだ表沙汰になっていない事件の第一報かも……って思うと、怖くて落とせなくて。小さな記事でも面白そうな記事や、将来に繋がるかもと感じた時は索引を取るようにしています」

 実際、後に世の中を騒がせる事件については、“予兆”のような記事を目にすることも少なくないという。

「たとえば“ルフィ詐欺・広域強盗事件”についても、まだ大ごとになる前からちょこちょこと小さな関連記事が出ていたんです。そういう時はスルーせずに、きちんと索引に拾うようにしています。また、芸能人のスキャンダルについては、一般週刊誌が報じる前に実話誌でイニシャルで載ることも珍しくありません。その記事を覚えておいて、後から追加で索引付けをすることもありますね」

次ページ:検索に難儀するアイドルグループとは

前へ 1 2 3 4 次へ

[2/4ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。