雑誌の殿堂「大宅文庫」が“グーグルを先取りした”と称される理由…なぜ大宅壮一は「つまらない記事」の所蔵にこだわったのか

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 何か知りたいことがあるとき、スマホで検索すればGoogleがその結果を表示してくれる。生成AIが進化すればさらに詳しい情報が手に入るだろう。一方で、インターネットが存在しない時代から“目的の資料がすぐに引き出せるように”と、膨大な雑誌資料を記事単位で整理、分類していた人物がいる。評論活動のため、資料収集と整理に力を注いだ評論家・大宅壮一(1900-1970)だ。(全2回のうち「第1回」)【高橋ユキ/ノンフィクションライター】

「大宅式分類法」は、いわば“人力Google”

 京王線八幡山駅を降り、松沢病院を左手に見ながら赤堤通りを南に10分ほど進むと、右手に小さな建物が見えてくる。区立図書館のような佇まいのそこは、日本最大の雑誌図書館『大宅壮一文庫』(以下、大宅文庫)。もともとは大宅自身の資料室だった。

「本は読むものではなく、引くものだよ」

 そんな言葉を遺した大宅は生前、取材活動や講演を行いながら、全国の古書店や古書市に通い、雑誌を主とした大量の資料を収集。資料整理のためにスタッフを雇い、目的の記事を簡単に引き出すための“索引カード”を手書きで作成した。大宅はこの資料室を「雑草文庫」と呼び、他の作家や編集者らに開放していたという。没後は「多くの人が共有して利用できるものにしたい」という大宅の遺志により、メディア各社からの支援を得て、公益財団法人・大宅壮一文庫が設立された。

 索引カードをもとに、お目当ての記事が載った雑誌をすぐに探し出せる――。いわば“人力Google”のような「大宅式分類法」を用いた索引検索は、のちにオンライン化され、各地にある契約している図書館のパソコン端末からも利用できるようになっている。興味深いのは、記事ひとつひとつの索引入力を、いまも、大宅文庫のスタッフが手分けして行っていることだ。それぞれが複数の雑誌を担当し、利用者がすぐに目的の資料に辿り着けるよう各記事を分類してキーワードをつける。

 索引作りのため日々、雑誌に目を通していると時代の変化が見えてくるという。同館索引チーム・編集委員の小林恭子さんに聞いた。

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