「2人殺害ひき逃げ」男の“死刑回避”は正しかったのか? 本人が明かす「当てて逃げようと思っただけ」「思ってた以上に結果が悪くなっちゃって」
「刑務所だとテレビが見られますよね」
【写真】盛藤被告の“素顔” 実家の近隣住民は「昔は結婚していたんだけど、女房が出て行っちゃってね」
“刑務所に戻りたかった”という理由で見ず知らずの人間を二人ひき殺した男は、今年1月、「週刊新潮」記者に刑務所の利点をこう語っていた。
男の名は盛藤(もりとう)吉高(54)。
4年前の5月、盛藤は福島県内の国道で面識のない男女二人をトラックで撥ねて殺害した。逮捕後、「刑務所に戻りたくて事故を起こした」と供述し、殺人罪などに問われていた身だった。
今年5月末、最高裁判決が下され、盛藤の無期懲役が確定した。最高裁は死刑回避の理由を、〈生命の軽視が顕著とまでは言えない〉などとしている。“刑務所に戻りたかった”という盛藤の目的は達せられたわけだが、果たして彼の犯行は、本当に〈生命の軽視が顕著とまでは言えない〉ものなのか。
「死刑は恐ろしい」
改めて事件を振り返ると、2020年5月31日の朝、福島県三春町で地域の清掃活動に参加中だった橋本茂さん(当時55)と三瓶美保さん(当時52)は、道路にコーンを置き、ガードレールとコーンの間でゴミ拾いをしていた。
反対車線を走っていたトラックが突如Uターンして暴走を始める。コーンをはね飛ばし、二人めがけて時速60‐70kmまでスピードを上げて突っ込んだ。トラックは二人を撥ねた後、停止することなくそのまま走り去って行った。
それから4時間後、同県須賀川市内で路肩に止まっているトラックを県警が発見。運転席にいた盛藤を緊急逮捕した。
盛藤は事件を起こす2日前まで、福島刑務所に服役していた。暴力行為等処罰に関する法律違反の罪で1年6カ月服役し、満期出所したところだった。
出所からわずか2日後、就労予定の会社の従業員寮から鍵をくすねて、盗んだトラックのハンドルを握った。それから約30分走り続け、清掃中の被害者らに目を留めて、犯行に及んだのである。
事件発生当時、被害者らと共に地域のゴミ拾いをしていた近隣住民によれば、三瓶さんは衝突の衝撃で拾ったゴミの上に投げ出され、病院に搬送された後、息を引き取った。橋本さんに至っては、即死だったという。
21年の裁判員裁判による一審判決では、
〈これまで死刑が選択されてきた事例と大きな差はない〉
〈人命軽視の程度が甚だしい〉
として、死刑判決が下された。が、23年、仙台高裁はこの一審判決を破棄。〈生命軽視の態度は明らかだが、甚だしく顕著とまでは言えず、死刑がやむを得ないとまではいえない〉と、無期懲役を言い渡した。
高裁判決が出た3か月後の昨年6月下旬、仙台拘置所で面会に応じた盛藤は、“(被害者は)避けられたはずだ”と主張した。
以下は、当時の盛藤とのやりとりである。
――刑務所に戻りたい、と思った理由は。
「慣れない環境や土地で不安でいっぱいでした」
――一審判決は死刑だったが、控訴したのは、死刑になりたくないからか。
「死刑になりたくない、死にたくないという気持ちはあります……」
裁判について尋ねると、途端に饒舌になり、検察への不満を並べ立てた。
「検察は、やったことを事実より大きく見せようとしている。当てて逃げようと思っただけで、殺す気はなかったのに、殺す気があったかのようにされてしまったんです」
――加速したトラックでぶつかれば、普通は死ぬかもしれないと思う。
「検察側の証拠として出て来た当時現場にいた人の証言があるんですが、その人は“前からものすごいスピードでトラックが走って近付いてきて、危ないと思って避けた”と証言していました。だから避ける余裕はあったはずなんです」
盛藤は前述の暴力行為等処罰に関する法律違反の罪だけでなく、公務執行妨害、傷害及び器物損壊の罪などの前科があり、計3年を福島刑務所で過ごしている。それらの前科についても、“冤罪”だと主張する。
――色々言い分はあるにしても、二人の生命を奪ったことを重く受け止めて、一審判決(死刑)を受け入れて控訴しない形で罪を償うというのは考えなかったのか。
「結果的にお二人が亡くなってしまったことには申し訳なく思います。ただ初めから殺すつもりだったわけではないので……」
被害者の二人は、“結果的に”亡くなったと強調するのだ。
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