「女優は脱がないと一人前になれない」という日本映画界のあしき風潮 「先生の白い嘘」騒動に見る「監督のパワハラ、性加害がなくならない理由」

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抜けがちな男性出演者へのケアの視点 脱いでも評価されにくい男優たち

 今回は奈緒さんを気遣う声が多いが、相手役の俳優たちのケアも忘れてはならない。風間俊介さんと猪狩蒼弥さんはともに旧ジャニーズ事務所出身であり、創業者による性加害報道を目の当たりにするというショックや影響も大きかったことだろう。もしかすると、被害を見聞きすることもあったかもしれない。そういう話は監督ではなく専門家しか対処できないという点を考えても、やはりインティマシー・コーディネーターがつくべき現場だったと断言できる。すでに話題になっているが、「大奥 Season2」(NHK)で娘に性虐待を加える役を演じた高嶋政伸さんや、「エルピス-希望、あるいは災い-」(関西テレビ)に出演した鈴木亮平さんなど、インティマシー・コーディネーターという専門家が現場にいる安心感を、男性側から発信する声も増えている。

 とはいえ、男性俳優のベッドシーンというのはそもそもあまり重要視されないのだろう。女優の体当たり演技は評価される一方、男優はベッドシーンがあることが強みになるわけではないようだ。男性の場合、受賞リストで目につくのは、やたら「死ぬ」役ばかりといえる。

 ヤクザや犯罪者、兵隊や重病人といった「死」に直面する役。社会的・身体的に死に近い役ほど賞レースに強いようだ。あとなぜか、うだつの上がらないボクサー役が多いのも興味深い。セクシーだと評判の斎藤工さんや錦戸亮さんが意外と映画賞には縁遠いのを見ても、女優ほどに「体当たり演技」が評価ポイントにならないのが分かる。例外として「怒り」の妻夫木聡さんや「エゴイスト」の鈴木亮平さんなど、濃厚なラブシーンのあるゲイ役を演じた俳優は受賞しやすい傾向にあるが、彼らの演技力の高さのみならず、社会的には抹殺されがちなマイノリティー役だからという解釈もできる。

 性被害など精神的に追い込まれる役ほど賞を取る女優と、殴られ蹴られ身体的に追い込まれる役ほど評価される男優。苦しむほどに賞に近づくというマゾヒスティックな構造が、監督と出演者との権力勾配を強くし、一部の映画監督のパワハラ的な指導や性加害を招いてきた側面は否定できないのではないだろうか。

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