「女優は脱がないと一人前になれない」という日本映画界のあしき風潮 「先生の白い嘘」騒動に見る「監督のパワハラ、性加害がなくならない理由」
現在公開中の映画「先生の白い嘘」で三木康一郎監督(53)が、主演の奈緒(29)サイドからの「インティマシー・コーディネーターを入れてほしい」との要望を断った問題。ライターの冨士海ネコ氏はこの騒動の背景には、日本映画界独特の構図があると分析する。
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女優は脱がないと賞を取れないのか。日本の映画賞で主演女優賞を取る作品の傾向を見ていると、不倫や性依存など、ヒロインと性的な設定は切っても切り離せないように思える。
昨年キネマ旬報ベスト・テンで1位を取った「ほかげ」主演の趣里さんは、服を全部脱ぐシーンがある「生きてるだけで、愛。」(2018)でも数多くの映画賞を受賞。門脇麦さんは、123分の作品中、服を着ているシーンは18分30秒しかないという「愛の渦」(2014)で主演を務め、TAMA映画賞最優秀新進女優賞などを受賞し一躍有名になった。日本アカデミー賞では2021年の最優秀主演女優賞に輝いた長澤まさみさん主演の「MOTHER」や、2023年にノミネートされた広瀬すずさん主演の「流浪の月」など、重いテーマの作品ながら、人気女優が「どこまで脱いだか」についてばかり報道されてしまうということもある。
先日公開された奈緒さん主演「先生の白い嘘」の炎上の背景には、そうした映画業界の潮流も影響していたのではないか。目立った映画賞が欲しい旬の女優と、性的なシーンの多さを社会派作品という名目で丸め込みたい監督という構図と見てしまう。原作はショッキングな性暴力シーンが多く、奈緒さんの前には10人ほどの女優に断られたそうだ。しかし、ようやく引き受けてくれた奈緒さんから、インティマシー・コーディネーターの要請があると、「間に人を入れたくない」と三木監督が拒絶したことが明らかになり、批判が殺到。企画から映像化までに10年を要したというが、だからこそ俳優を大事に扱おうというのではなく、「俺が長年撮りたかった画を邪魔されてたまるか」と、10年分のエゴを通すことにしか気持ちが向かなかったように感じられる。公開初日の舞台あいさつでは、監督とプロデューサーが共に謝罪し、壇上にいた奈緒さんも「私は大丈夫」とフォローしたものの、まだまだ火の手が収まる気配はない。
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