坂本冬美が歌う、“昨年亡くなった弟の十八番” 「辛くて歌えないと思っていたら…」背中を押された不思議な出来事を語る

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新アルバム『想いびと』で、GACKTや石崎ひゅーいの“隠れ名曲”にもトライ

 そうした趣向を凝らしたカバー曲を歌ってきた坂本冬美が、’24年に発表したのが、自身いわく“坂本冬美史上、もっともハートウォーミングなカバーアルバム” である『想いびと』だ。全10曲からなる本作だが、すべて男性アーティストによる男性目線の作品が並んでいるのはなぜだろうか。

「そもそも、このアルバムを作るきっかけになったのは、『ブッダのように私が死んだ』(作詞・作曲・編曲:桑田佳祐)を歌ったことです。今のプロデューサーから、“この延長線上で桑田さんオリジナル曲のブルース『月』も歌ってみたらどうなるのか? それを入れたアルバムを聴いてみたい”と提案があって。

 それで、坂本冬美の原点は“男唄”ですから、選曲も男性アーティストによる作品でそろえました。考えてみたら、Spotify第1位の『また君に恋してる』も、男性目線ですから、基本的に男歌は得意なんです(笑)」

 これまでの『Love Songs』や『ENKA』は、リスナーの間口を広げるため、世間に広くなじみのある楽曲から多数選ばれてきたが、今回の『想いびと』はヒット曲に限定していないことも大きな特徴だ。

「そうですね。『ひまわりの約束』や『恋の予感』『千の風になって』といった一般的に知られている楽曲も歌わせていただきましたが、やはり “想いびと”というタイトルなので、愛する人への想いを歌った曲を集めました。

 例えば、別れてしまった恋人への想いや、永遠の別れの想い、そして家族への想い……とにかく、そういった“深い想い”が詰まったものを、知名度は気にせずに選ぼうと。プロデューサーが集めてくれた数十曲の中から、私の声質に合うものや、歌ってみたいと思ったものを厳選しました」

 特に、GACKTがベストアルバムだけに収録した「サクラ、散ル…」と、シンガーソングライター・石崎ひゅーいの「花瓶の花」は、知る人ぞ知る隠れ名曲で、カバーの前例もない。それを演歌歌手の坂本冬美が歌うというのは、かなり意表を突かれることだろう。だが坂本は、「この2曲はどうしても歌いたかった」と語る。

「そもそも、私がGACKTさんの楽曲を歌うというだけで相当ビックリですよね?きっとGACKTさんも驚かれたと思いますし(笑)、よく歌うことを承諾してくださったなと感謝しています。『サクラ、散ル…』は、まずタイトルに惹かれて、実際に聞いてみたらとっても切なくて。日本人と桜には切っても切れないものを感じますし、その桜の持つドラマ性……1年に1回、わずかな時間に満開となった後は、『夜桜お七』のように散っていくというところも、日本人の気質に合っていますよね。この年齢になりますと、桜の季節に“あと何回この景色を見られるのだろう”って思いますし、その切なさを感じる曲にチャレンジしました。

 そして、石崎ひゅーいさんの『花瓶の花』は、初めて聴いた時に感動しちゃって。まさに“輪廻転生”を感じさせる1曲で、“生まれ変わっても変わらぬ想い”という世界が描かれています。私たちは前世を覚えていませんが、私は、たとえ肉体は滅びても、魂はずっと生き続けるものだと思っているんです。実際、家族や恩師など大切な人たちが亡くなっても日常でふと側にいると感じることもありますし、“きっとまた逢えるよね”という希望を持たせてくれる歌だと思っています」

 他には、’97年にロングヒットした山崎まさよしの「One more time, One more chance」もカバーしている。

「この歌詞には、今生きている人にまた逢いたいという気持ちが綴られていますが、私としては、“大丈夫!あなたの気持ちは届いているから”という想いも込めて歌っています。実際、別れてしまっても想いが残っている人に、もう一度逢いたい、もしかしてまた逢えるかもしれない……って思ったりしますよね?そんな心情を思い起こさせるような、現世での別れの歌です」

 シンガーソングライター系の楽曲が多い中で、「千の風になって」のカバーは、やや異色に見えそうだが、深い想いがあることは他の収録曲と共通している。

「こちらは、愛する人を亡くした想い、そして、愛する人を残した想いが爽やかな風の中で相まって、目に見えなくてもお互いが笑顔で交われたらいいな、という想いを込めました。そばにいるよ、泣かなくていいよ、と語りかけるように……」

 しかし、これだけ想いの詰まった作品となると、歌っていてリズムからずれてしまうことなどはなかったのだろうか。

「そこは、あまり重くなりすぎないように心がけました。やはり、歌は聴いてくださる方がいて初めて成り立つわけですから、100%私の想いを乗せるんじゃなくて、どこか引いて歌っています。だから、実はレコーディングが終わった今も、“あー、物足りない!”って、ずっと思っているんです(笑)。私の想いはもっともっと詰まっているのです。でも、その余白にどうかみなさんの気持ちを埋めてください!」

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