夏ドラマも“原作モノ”多数…TV業界で「セクシー田中さん」の教訓は生かされているのか
日本テレビのドラマ「セクシー田中さん」の制作をめぐり、原作者・芦原妃名子さんが急死した問題からまもなく半年――。テレビ朝日の篠塚浩社長は7月2日の定例会見で、「原作者、脚本家をはじめとするすべてのスタッフと丁寧で緊密なコミュニケーションをとって信頼関係を築いた上で制作にあたっていく」との姿勢を改めて示した。またフジテレビも5日の会見で、矢延隆生専務取締役が「大切な原作を映像化させていただくという立場を肝に銘じ、よりよい作品のために、密なコミュニケーションをとっていきたい」と述べた。
漫画や小説などの原作をドラマ化にする傾向はその後も各局は変わらないが、「日テレだけの問題ではない」という危機意識は広がっている。その背景には何があるのだろうか。【水島宏明 ジャーナリスト/上智大学文学部新聞学科教授】
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「セクシー田中さん」の後も数多い漫画・小説が原作のテレビドラマ
「セクシー田中さん」は2023年秋期の日本テレビの連続ドラマだった。ドラマを制作した日本テレビと、原作者の代理人として交渉した小学館は、それぞれの社内調査報告書を公表している。そこには「トラブル回避」のため原作者と直接話し合う必要性や早期の契約書の締結、全話の構成の早期の確定、余裕ある制作スケジュールに心がけることなど、複数の改善策が記されていた。
この7月から始まった夏ドラマでも“原作もの”は数多い。いくつか例を挙げれば、社長が会見で問題に言及したテレ朝では「青島くんはいじわる」「南くんが恋人!?」があるし、日本テレビ系には「どうか私より不幸でいて下さい」、テレビ東京系では「夫の家庭を壊すまで」「ひだまりが聴こえる」、そのほかにもTBSの「西園寺さんは家事をしない」など……。
すでに評判の原作を映像化すれば、面白い作品になる可能性は高い。視聴率や観客動員も計算できる。提供する側も、テレビ化で話題になれば原作本が売れる。そういう意味で、原作を預かる出版社とテレビ局・映画会社などは「持ちつ持たれつ」の関係といえる。
ドラマやアニメ番組の制作者らに言わせれば「小学館の原作を映像化する時には要注意だ」という意見は、前々からあったという。映像にする時の交渉や意思確認、契約などの過程が、出版社の中では粗い面があり、トラブルになりがちだと複数から聞いた。
また、NetflixやAmazonなどの通信動画サービスが普及してきた現在、潤沢な予算を使って制作日数もかけられるグローバル大手に比べ、地上波民放テレビは予算や日数も限られ、悲惨だと多くの制作者が口を揃える。「極端に言えば月曜に脚本が届いて火曜・水曜に撮影した後で編集・音声の処理をして土曜には放送する」。 回し車をせわしなく回すハツカネズミのように走り回るイメージだろうか。現場にはコスパが求められがちのようだ。すべてのドラマが同じではないにせよ、そうした数字重視のドラマ制作に傾斜する局の急先鋒と言われてきたのが日テレだった。
小学館と日テレという組み合わせで問題が起きたことはなんとも象徴的で、「セクシー田中さん」問題はこんな民放地上波テレビの制作環境の中で起きたことを理解する必要がある。
他局担当者が示した「ウチならたぶんありえない」
名前は伏せるが、とあるキー局のドラマ関係者に聞いた話を披露しておきたい。その局では原作モノを映像化するケースでは、終始、法務部が関与する体制だという。
この局の法務部では、弁護士資格こそないものの、原作ものの映像化に精通するプロパーの社員がおり、契約にいたる前の交渉など、かなり早い段階から原作者や出版社と現場とのやりとりに関わる仕組みにしているという。
今回の「セクシー田中さん」の問題は様々な要因が絡み合っているため一概に言えないと断りつつ、この関係者は「ウチならたぶんありえない」と自信をみせていた。実務を長年にわたって支えてきたベテラン社員が、いわば職人芸のように関わり、これまで何度となくトラブルを救ってきたのだという。当然、その分だけ手間や時間、費用などもかかるわけだが、原作者をふくめた相手側の意思確認をしなければならない時には、時に「立ち止まって考える」こともあるそうだ。
原作者と「原作が持つ世界観」を共有する制作側の人間は、必ずしもプロデューサーである必要はない。責任を持つ立場ならば、演出者(監督)でも構わない。ある著名な映画監督は、原作本を映画化する際には、必ず自ら原作者に会いに行って話すようにしていると語っていた。
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