【王位戦第1局】「千日手」の指し直し局で藤井聡太七冠がピンチに…渡辺九段はなぜ勝利を逃したか

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AIの勝率も99%に達したが

 終盤も敵陣の角がうまく玉頭を守る形になっていた。一方、大きく差があった持ち時間は縮まっていく。先に8時間の持ち時間を使い切った藤井が1分将棋になると、すぐに渡辺も1分将棋に。それでも渡辺が攻め続け、AIの勝率も99%に達したが、そこに「魔物」が現れた。

 119手目、渡辺は「3二銀」で藤井玉に王手をかけた。すると勝率が逆転し、渡辺は20%台に下がってしまった。やはり1分将棋は怖い。絶望状況でガクッとうなだれる場面もあった藤井だが、辛抱強く耐えるうちに渡辺のミスを誘ったともいえよう。

 対局後、渡辺は「いきなり最終盤になって(詰み筋は)読めてはいなかった。詰みがわからなかったですね。詰まさなきゃいけなかった。見えなかったですね」と悔しがった。感想戦でも「いやー、分かっていなけりゃ当然引くもんなあ」「ああ、それしか詰まないのか」「『2四桂』で詰むかなとも思ったけど」など盤の上に手をかざして盛んに振り返っていたが、時折、天井を見上げるなど悔しさを隠せない様子だった。

内容は反省するところが多い

 渡辺は以前から藤井に対しては「いいとこなし」の状態が続いていた。名人戦以来となる今回の対局では、見事な差し回しによりほぼ手中にしていた勝利を土壇場で逃した。渡辺は「まだ始まったばかりなので気を取り直して頑張りたい」と誓った。

 藤井は千日手になった局について「仕掛けていく機会を失った」と話し、指し直し局については「粘り強く差そうとしたけど、竜を作られて苦しかった。結果は幸いしたけど、内容は反省するところが多い」と語った。

 藤井は王位5連覇、さらに棋聖に続く2つ目の永世称号獲得に向けて好発進となった。王位の永世資格は最も難しいとされる連続5期、または通算10期が条件だ。王位戦第2局は7月17、18日に北海道函館市のホテル「湯元 啄木亭」で行われる。
(一部敬称略)

粟野仁雄(あわの・まさお)
ジャーナリスト。1956年、兵庫県生まれ。大阪大学文学部を卒業。2001年まで共同通信記者。著書に『サハリンに残されて』(三一書房)、『警察の犯罪――鹿児島県警・志布志事件』(ワック)、『検察に、殺される』(ベスト新書)、『ルポ 原発難民』(潮出版社)、『アスベスト禍』(集英社新書)など。

デイリー新潮編集部

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