登山で身に着けるべき「色」とは?捜索者の目に入りやすい理由

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 山での遭難事故というと標高の高い山を思い浮かべがちだが、実はハイキングコースがあるような「低い山」で遭難するケースも相次いでいる。“もしも”の際に、素早く救助隊が発見できるよう登山者自身で配慮できることはあるだろうか?

 民間の山岳遭難捜索チームLiSS(リス)のメンバーと代表の中村富士美氏は、登山に出掛けて帰ってこない行方不明者の家族から依頼を受け、山へ捜索に向かう。中村氏は、独自の視点で捜索活動を行うのみならず、その家族のサポートも担っている。

 捜索のプロの立場から提案する「身に着けてほしい登山用具」とは? そして、遭難した際にかかる費用とは? 中村氏の初著書『「おかえり」と言える、その日まで 山岳遭難捜索の現場から』より一部抜粋してお届けする。

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 山中に長期間あると衣類などは破けてしまうこともあるが、基本的に登山用具は形を残している。

 遺留品が見つかると「本人が最後まで持っていたものだから」と安心するご家族もいれば、「山の道具を見るのが怖い。思い出すのもつらいから、荷物は返してほしくない」というご家族もいる。どちらの気持ちも、理解できる。

 私は、捜索中にご本人の物と思われる登山用具を見つけた時、ご家族には細心の注意を払ったうえで連絡をするようにしている。山中でも電波が届く場所にいる場合は、「今、××××を山中で見つけました。一応、写真を撮っていますが、ご覧になりますか?」とメールなどで尋ねる。「見る」というご家族には、そのままお送りするし、「見たくない」といわれたら、それ以上は無理強いしない。

山の中で目立つ色

 ご遺体の多くは数ヶ月で白骨化し、とても小さくなってしまう。それに対し、登山用具の大半は丈夫でほとんど壊れないし、色もカラフルだ。山の中でも目立ち、見つけやすい。私たちは依頼を受けた際の聞き取りで、「リュックのブランドは何ですか? 何色のものですか?」と聞く。リュックは登山用具の中でも、特に大きいものだからだ。特に青は、自然界に絶対にない色だ。リュックではなくても、キャップか上着か、どこかに青いものを身に着けてほしい。赤や黄色は紅葉や落ち葉と同化してしまうし、緑は新緑の時期、見えにくくなる。

 遺留品が出てくると、ご家族の多くは「本当にこの山にいたんだ」と実感される。そこから「もうすぐ見つかるかも」と希望にもつながる。山に登るときには、万が一の場合に備え、目立つ色のものを身に着けていってほしい。それが早期発見に結びつき、時にはあなたの命を守ってくれるかもしれないからだ。

遭難した際にかかる捜索費用

 捜索費用は捜索団体によって異なるようだが、LiSSの場合、捜索隊員1人当たりの日当と食費、交通費、宿泊費をいただいている。

 捜索地が険しい山域の場合、捜索するために道具や高い登山技術が必要となってくる。その場合、現場に投入できる隊員も限られる。そうした事情から山域によって変動はあるが、隊員1人当たりの日当は3~5万円ほどとなる。捜索は基本的に2人1組で行うため、最低でも3万円×2人分。これに交通費などの実費が加わるので、家族にとっては大きな負担であることは間違いない。

 よく「遭難するような山には行かないから」「山に慣れている人と一緒に登るから」「ハイキングレベルだから」といって山岳保険に入らない人がいる。

 しかし私は「遭難の可能性がない山はない」と言いたい。どんな山にも危険はある。昨今のコロナ禍の影響もあり山岳遭難は一時的に減少したが、全体的には年々増加の一途をたどっている。

 警察庁の調べによると、2021年は2635件発生しており、遭難者は3075名。死者は255名、行方不明者は28名となっている。

 遭難の原因のトップは「道迷い」が圧倒的に多く1277名、遭難全体の41.5%を占める。その次に転倒、滑落と続く。もちろん、病気や疲労、そして天候の悪化なども原因になりうる。

 また、最近の山岳保険には、私たちのような民間捜索団体による捜索費用の補填はもちろん、持ち物の破損や、自分が起こしてしまった落石で周囲の人にけがを負わせてしまった場合などもカバーしてくれる賠償責任特約がついているものもある。

 同様に、登山に行く際には「自分がどのルートで、どの山を登るか」の情報を必ずどこかに残してほしい。一番いいのは登山届の提出だが、メモでも家族に伝えておくのでもいい。ルートが分からない場合、捜索範囲が広大になり捜索時間も長引く。当然、費用も嵩(かさ)むことになり、家族に大きな負担をかけてしまうからだ。

『「おかえり」と言える、その日まで―山岳遭難捜索の現場から―』より一部抜粋・再構成。

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