日本はH5N1型「鳥インフルエンザ」への危機意識があまりに低い…乳牛への感染が見逃されている可能性
乳牛からヒトへの感染
米農務省の直近のデータによれば、129の乳牛の集団で感染が確認されている(7月1日付ロイター)。鶏は感染すると死に至ることが多いが、乳牛は感染しても回復するケースがほとんどだ。
日本で乳牛の感染例は報告されていないが、そもそも検査が義務づけられていない。このことから、感染が見逃されている可能性は排除できないだろう。
乳牛からヒトへの感染も相次いでいる。米国では3月下旬以降、牛と頻繁に接触していた4人が感染した。
感染者の症状は結膜炎にとどまり、季節性インフルエンザの治療に使われる抗ウイルス剤・オセルタミビルの投与で回復したという。この例が軽症であることを考えると、実際の感染例はもっと多いのかもしれない。
鳥からヒトに感染した場合と異なり、乳牛からの感染による死者はこれまでのところゼロ。毒性が下がれば安全のように思えるが、宿主から宿主への感染が広がりやすくなればパンデミックも起きやすくなる。新型コロナの初期の致死率は約1%だった。100年前に猛威を振るったスペイン風邪の致死率も2%と推定されている。
対応を急ぐ欧米、静観する日本
日本とは異なり、欧米はH5N1型インフルエンザ対策を強化し始めている。
特筆すべきはフィンランド政府の対応だ。同国でH5N1型インフルエンザのヒトへの感染例は報告されていないが、動物との接触がある一部の労働者に対し、7月からH5N1型インフルエンザ用ワクチンの投与が開始された。同国政府が世界で初めて1万人分を調達したワクチンは、豪バイオ医薬品大手「CSLセキラス」が開発したものだ。
米国政府もCSLセキラスなどからのワクチン調達を検討するとともに、新たなワクチン開発にも本腰を入れている。米バイオ医薬品大手「モデルナ」は7月2日、H5N1型インフルエンザ用のメッセンジャーRNAワクチン開発を加速するため、米政府から1億7600万ドル(約285億円)の資金を確保したことを明らかにした。
欧州連合(EU)も米国と同様の動きに出ている。
これらの動きと対照的に、日本政府は静観の構えだ。前述の行動計画に「平時からのワクチンの研究開発などを推進する」ことを盛り込んだのにもかかわらず、だ。
欧米企業に後れをとったが、第一三共や塩野義製薬は新型コロナ用のワクチン開発に成功している。
現時点で「H5N1型インフルエンザのパンデミックが起きる」と断言するつもりはない。だが、備えあれば憂いなしだ。日本政府もワクチン確保のための対策を直ちに実施すべきではないだろうか。
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