石丸伸二氏のマスコミ対応に「パワハラ」と批判が殺到 専門家は「支援者は溜飲を下げており、本人もこれでいいと考えているはず」
「ネット選挙」への誤解
政治ジャーナリズムの世界からは「大規模な数の有権者が、新聞やテレビの報道ではなく、ネットで投票先を決めた初めての選挙」、ネット上では「有権者がYouTubeやInstagramで投票先を決めた初めての選挙」などと、石丸氏がネットの追い風を元に票を伸ばしたとの分析が目立つ。だが井上氏は「結論は正しくとも、前提となる事実認識が間違っていることは指摘せざるを得ません」と言う。
「ネット選挙が解禁されたのは2013年で、もう10年以上の歳月が流れています。インターネットは個人レベルでも情報発信が可能なので、当初は小規模な政治団体がネット選挙に期待する傾向がありました。ところが自民党が電通や博報堂などの助言を得て本格的に資本や人材を投下すると、既存政党の中では最もネット戦略に長けた政党となりました。そのため『石丸氏が初めてネット選挙で成功を収めた』という指摘は自民党の実績を無視しており間違いです。さらに『ネットしか見ない有権者が増えた』という指摘も事実に反しています。有権者の年齢が下がるほどネットで選挙情報を集める頻度が増すのは事実ですが、彼らの大多数が新聞やテレビの報道もチェックしています。YouTubeの動画だけで投票先を決めることは誰であってもできないはずです」(同・井上氏)
ネット民が喜ぶ石丸氏のロジック
石丸氏がネット上を中心に“旋風”を巻き起こしたのは事実であり、その理由を井上氏は「ネットで情報拡散を行う際、基本のアプローチに忠実だった」ことを挙げる。
「安芸高田市長時代の石丸さんは、ごく普通に市政の可視化を行い、ネット上で共感の声を集めることに成功しました。今回の都知事選でも、石丸さんは特別な“ネット戦略”を実施したわけではありません。街頭演説を繰り返し、その動画をボランティアや一般の有権者に撮影してもらってネット上に投稿してもらい、それが拡散していくという基本に忠実なアプローチでした。ただし、基本に忠実であれば誰でも拡散に成功するわけでもありません。石丸さんがネット上で大きな支持を得ることができたのは、彼がごく自然に“ネット的な振る舞い”を行うことができるからだと思います」(同・井上氏)
井上氏が注目するのは、街頭演説で石丸氏が何度も訴えた呼びかけだ。選挙期間中、石丸氏は「私が都政を変えます、私が都政を刷新します」とは絶対に主張しなかった。「皆さんが都政を変えて下さい。皆さんが私に投票することで当選し、皆さんの付託を受けた私が都政を刷新します」というロジックを何度も使った。
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