恋人が「オジサン」と不倫していた… 51歳夫が今も後悔する“言わなきゃよかった”言葉

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50歳目前でリストラ

 だがそんな順風満帆の家庭生活が一気に崩壊寸前になった。娘が高校2年生になったころのこと、彼が勤める会社が突然、吸収合併されたのだ。中堅企業なりに業績は上がっていたし、アットホームないい会社だったのに、社内の空気が激変した。希望退職が募集され、彼自身も年齢的に対象となった。

「やめてもそれほど高額な退職金上乗せが期待できるわけでもなかったし、このまま居残ったほうがいいかもしれないと思いました」

 ところが居残ってみたら、彼はなんとリストラされてしまった。自分を過大評価していたのか、こんなことなら退職すればよかったと思ったが後の祭りだ。上司によれば、彼のリストラは誰もが意外だと受け止めたらしい。ただ、吸収してきた会社には彼と同じ仕事をしている者が多数いた。先方の力のほうが強かったのだ。

「50歳目前で放り出されて、どうしたらいいかわからなかった。上司も親身になって、あちこち紹介してくれましたが、いつしかその上司も辞めるはめになって。地獄でしたね」

 その顛末を、彼は妻に話せなかった。もともとお互いの仕事についての話はほとんどしなかったのだが、彼にはやはり「夫としてのプライド」があったのだろう。素直に話せていれば、あれほど苦しまなくてすんだのにと思うこともある。

 会社に行かなくてよくなったのに、彼はいつものようにネクタイを締めて同じ時間に出ていった。当時はまだコロナ禍で、図書館も時間制限していましたね。空いているパチンコ屋を求めてうろつくこともあった。ハローワークもいつものようには機能していない。それでも職を求める人たちがいた。その必死さを見て、なんだか気持ちが萎えてしまったという。本来なら、自分こそ必死にならなければいけないのに。

「いずれにしてもいつかはバレるんだから、自分の口から言おう、言うしかない。やめてから3週間ほどたった週末の夜、寝室で妻に打ち明けました。妻は黙って聞いていたけど、ふうっと大きなため息をついた。ギクッとしましたね。『早く言ってくれればよかったのに。つらかったでしょ』と妻が言ったとき、本当ならその優しさに感謝すべきところなんでしょうけど、なんだか僕は言えないオレの気持ちなんかわからないだろうと思ってしまった。完全にいじけていただけ。でも妻に『ごめんな。無能な亭主で』と嫌味のように言ってしまった。妻は背中を向けました。そりゃそうですよね。でも素直になれない男の気持ちをわかってほしいと思った。甘えだけど」

 そして家族はさらに大きな問題を抱えることになった。

 打ち砕かれてしまった遼平さんの自尊心――。【後編】での“事件”を経て、いまや彼の家庭は崩壊しかけている。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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