【虎に翼】37歳になった寅子 物語全編に横たわる「キーワード」と「伏線」 後半の「戦い」を考察

エンタメ 芸能

  • ブックマーク

寅子と桂場は「水源」を守れるか

 朝ドラことNHK連続テレビ小説「虎に翼」が8日から第70回台に入った。全130回の予定なので残り約50回余。これからの注目点、物語の全体像を考えてみたい。【高堀冬彦/放送コラムニスト、ジャーナリスト】

 1931年という設定で始まった物語は現在第70回台。1951年になっている。17歳の女学校生徒だった主人公の猪爪寅子(伊藤沙莉)は37歳になった。これから先はどうなるのか。また物語の全体像はどうなるのだろう。それを考えたい。

 第1の注目点は、寅子と最高裁人事課長の桂場等一郎(松山ケンイチ)が、「水源」である法律を外圧から守り続けることが出来るかどうか。

 寅子の場合、モデルの三淵嘉子さんを語る際に欠かせない「原爆裁判」(1955年)を扱うことによって、水源を守れるどうかが問われるのではないか。

 一方の桂場はモデルの第5代最高裁長官・石田和外氏による1960年代後半からのブルーパージに触れることにより、裁判官としての真価を浮き彫りにするように思う。ブルーパージとは、リベラルな考えを持つ青年法律家協会(青法協)所属の裁判官たちが、人事面などで不遇をかこった問題である。

 水源という言葉は第25回(1936年)に初めて登場した。当時の寅子は明律大の学生で、桂場は東京地裁の裁判官だった。この物語の全編に横たわるキーワードにほかならない。

 寅子は桂場に対し、法律というものの意味についての自説をこう語った。

「きれいなお水の湧き出ている場所」(寅子)

 それまでは寅子の法律論など歯牙にも掛けなかった桂場だが、この話には関心を抱き、「水源のことか?」と尋ねる。すると寅子は「はい、私たちはきれいなお水に変な色を混ぜられたり、汚されたりしないように守らなきゃいけない」と答えた。

 桂場は水源という表現が気に入り、第50回(1947年)の久藤頼安(沢村一樹)との会話でも口にしている。桂場は人事課長になっており、久藤は司法省(現・法務省)民事局民法調査室主任だった。

 久藤には桂場が人事課長のポストを引き受けたことが意外で、「法廷一筋なのかと思ったよ」と言った。これに桂場は「手法を変えただけだ」と答える。さらに「司法の独立、法の水源を守るためのな」と、言葉を継いだ。

 桂場は司法界に影響力を持つ貴族院議員・水沼淳三郎(森次晃嗣)が仕組んだ第18回から25回の「共亜事件」(1935~36年)で無罪判決を出したため、冷や飯を食わされた。

 表舞台に戻れたのは敗戦後に水沼がA級戦犯になり、公職追放されたから。桂場は裁判が政治に利用されるようなことが2度と起こらないようにするため、人事面で守りを固めようと考えたわけである。

 桂場は元最高裁裁判官で寅子の明律大の恩師だった穂高重親(小林薫)の弔い酒を飲んでいた第70回(1950年)にも寅子や久藤らに向かって、「もう2度と権力好きのジジイたちに好きなようにはさせない!」と雄叫びを上げた。

 だが、これは伏線だろう。桂場は自分自身が政治的になっていくと見る。同じ第70回、穂高が寅子との最後の会話で口にした言葉ともつながる。「君もいつかは古くなる」(穂高)。桂場も古くなってしまうと見ている。モデルの石田和外氏の場合、ブルーパージに走ってしまった。

次ページ:ブルーパージと原爆裁判

前へ 1 2 3 次へ

[1/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。