ロッテファンが狂喜乱舞した“伝説の一夜” まるで漫画のような結末を迎えた「ボーリックナイト」を振り返る

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「伸びる、伸びる、バックする。さあ、どうだ!」

 しかし、野球は最後の最後までわからない。その裏、ロッテも最後の粘りを見せる。

 先頭の小坂が左前安打で出ると、サブローがペドラザの外角球を三塁方向に叩きつけ、俊足を飛ばして一塁を陥れた(記録は内野安打)。次打者・福浦も、「お前が出れば、ボーリックがサヨナラ本塁打を打ってくれるぞ」という佐藤兼伊知コーチの耳打ちに頷いて打席に入ると、初球を左前に運び、無死満塁と“サヨナラ”のお膳立てを整えた。

 そして、ベンチの期待を一身に受けた4番打者が奇跡を起こす。「ダブルプレーだけは避けたかった。(最低でも)外野フライで1点を返そうと思っていた」というボーリックは、カウント1-0からペドラザの2球目、132キロスライダーを踏み込むようにすくい上げてフルスイング。

「伸びる、伸びる、バックする。さあ、どうだ!」と実況アナが絶叫するなか、高い弧を描いた打球は逆転満塁サヨナラ弾となってバックスクリーン左に飛び込んでいった。

 その瞬間、スタンドのロッテファンは「信じられないものを見た」とばかりに一瞬シーンと静まり、一拍置いて割れんばかりの大歓声を上げた。カバーのため三塁に向かって走っていたペドラザは、試合が終わったことに気づくと、そのままベンチに引き揚げていった。

「あとは、ボーリックに聞いてくれ(笑)」

 ベンチ総出の祝福を受けたミラクルヒーローは「打った球はわからない。スライダーかシュートかも。米国でもこんな経験はない。遅くまでファンも残ってくれていたからな」と生まれて初めての感激に打ち震えた。

 山本功児監督も「(大道の)スリーランで死んだと思ったよ。生涯でこんな勝ち方したことない。最後はわけわからなくなった(笑)。勝負を最後まで捨ててはいけないということが、改めて痛感した。あとは、ボーリックに聞いてくれ(笑)」と夢うつつの表情だった。

 筋書きのないドラマを越えた、あまりにも超現実的な結末に、王監督は報道陣に無言を貫いたまま帰りのバスの中に姿を消した。「まるで(野球)漫画みたい」という小久保の言葉がすべてを物語っていた。

 ロッテ在籍4年間で通算打率.266、92本塁打、288打点を記録した寡黙で真面目な助っ人の名前は、今も“ボーリックナイト”の伝説とともに、ファンの胸にしっかりと刻み込まれている。

久保田龍雄(くぼた・たつお)
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。

デイリー新潮編集部

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