“非効率な作戦”とわかっているのに…日本のプロ野球で「送りバント」は、なぜ減らないのか? 歴史的な「投高打低」に拍車も

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実際は“2割以上”が失敗

 こうした確率論は、当然NPB球団の首脳陣も知っており、あらゆるデータを活用しているはずである。それでも送りバントが増えている理由には、何があるのだろうか。

「もちろん“送りバントが確率的に非効率だ”ということは常識になっています。ただ、最終的に作戦を決めるのは、ベンチにいる監督やコーチで、データ分析を担当する人間には、もちろん決定権がありません。ロースコアの接戦の展開になると、まずは二塁に走者を進めた方が、得点が入りやすいというイメージはまだまだ根強いですね。また、強攻して併殺打となることを避けたい気持ちも強いのではないでしょうか。“送りバントは成功して当たり前”という感覚を持っているファンも少なくないですけど、実際は“2割以上”が失敗しています。それを考えても、実は、送りバントで得点するのは難しいんです。それにもかかわらず、首脳陣は“送りバントは手堅い”というイメージを拭いきれていません」(ある球団のデータ分析担当者)

 また、別の球団関係者によると、プロ選手の経験がないアナリストの意見やデータは、どうしても首脳陣に軽視されやすい傾向が強いという。今年の送りバントが増えている傾向を見ても、球界の古い風潮はまだまだ残っていると言えそうだ。

犠打を減らして成果を出している球団とは

 その一方で、犠打数を減らして効果が出ている球団がある。それは、DeNAだ。昨シーズンは144試合で106個の犠打を記録していたが、今年は半分以下のペースで推移している。

 その背景には「オフェンスチーフコーチ」に就任した鶴岡賢二郎の存在が大きい。鶴岡は昨年までアナリストを務めており、データ分析に長けた人物である。「オフェンスコーチ」とは、データを活用・分析して、攻撃の作戦面を担う“参謀”のような役回りだ。

 1試合当たりの得点数を見ると、昨年はセ・リーグ4位に甘んじていたが、今年は2位となっている。データの分析に長けた人材を積極的に登用した効果が出ているようだ。

 もちろん、場面によっては、送りバントが有効なケースもあり、全てがデータで片づけられる問題ではないが、今年の各球団の戦い方を見ていると、よりデータを重視した野球にシフトしていく必要性に迫られている。DeNAに続く球団が出てくるのか。今後の各球団の動きに注目していきたい。

西尾典文(にしお・のりふみ)
野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

デイリー新潮編集部

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