いよいよ「Z世代中のZ世代」が職場にやって来た… 彼らに欠けている“力”とは

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理不尽に対する耐性が失われた

 手もとに、神奈川県のある高校がつくったスクハラの言動例がある。そのなかで、セクハラに該当するものは論外として、パワハラやモラハラ(モラル・ハラスメント)だから避けるべきだとされている例を、少し挙げてみたい。

 特定の生徒にだけ指導しない、もしくは過度に指導する。理不尽な指示を繰り返す。人前で罵倒したり、「君はいくら言ってもダメだね」などと人格を否定したりする。常識的に不可能な課題達成を強要する。提出期限をすぎた提出物を受けとらない。生徒に対して思い込みにもとづく発言をする。殴打や足蹴りをする。相手にものを投げつける。長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行う。他者の面前で威圧的な叱責を繰り返す。自分の意に沿わない者を隔離する。対応できないレベルの取り組み目標を課し、達成できないと叱責する。部活動等で慣習や伝統を理由に、本人が望まない行為を強要する。学習や部活動の成果が低いからと相手を貶める。自分の判断基準を絶対視し、それを超えられない相手をバカにする。「よその学校を見習え」など、他校と比較して生徒の人格を貶める。正当な発言に対して「偉そうな口をきくな」などと言う。些細なミスに「目がついているのか」など、身体的欠陥を思わせる表現をする。「自分で考えろ」などと突き放す。指導の際に「イライラさせるな」などと発言する。「嫌ならやめれば」などと解決する気がない態度をとる。相手のミスなどを引き合いに出して「期待して損した」「その程度か」などと、相手の能力を貶める……。

 かなりの例を挙げることになってしまったが、じつは、これは書かれているものの数分の一にすぎない。それに、その内容はいちいちもっともだが、これらに少しでも抵触してはいけないとされたら、先生は生徒を指導するのが怖くなってしまうのではないだろうか。

 上記の例は、感情をもった人間であるかぎり、気をつけているつもりでも、だれもが陥る可能性があるものばかりだ。そうである以上、子供たちが成人し、社会に出てから直面する可能性が高い内容だと言い換えることもできる。理不尽な例ばかりではある。そこから子供を守ることは必要だろう。だが、社会には理不尽があふれている以上(社会から理不尽が追放されることだけは、未来永劫ないだろう)、子供のころから一定程度は理不尽な体験をさせ、理不尽に対する耐性を身に着けさせることも、重要なはずである。

 その意味では、スクハラにはしっかり目を配りながら、厳格に取り締まりすぎないことも大事なのではないだろうか。21世紀誕生組はおそらく、こうした運用が厳格化されてからの最初の世代で、そこにコロナ禍における学生生活という、さらなる不利が重なってしまったものと思われる。

子供から理不尽を奪いすぎないこと

 昨今、職場でも、以前にくらべてパワハラへの厳しい対応が求められる。2019年に改正された労働施策総合推進法では、職場でパワハラ防止措置を講じることが、事業主に義務づけられた。また、2022年4月1日からは同じ法律にもとづいて、事業主は職場におけるパワハラ防止のため、雇用管理上の措置を講じることが義務化された。要は、企業は責任をもってパワハラ防止策を講じなければならなくなったのである。

 もちろん、それは必要なことではある。しかし、ハラスメントどころか、わずかばかりの理不尽への耐性もない若者に対して、上司や先輩たちがパワハラになるのを避けるべく、気を使いながら接するとどうなるだろうか。

 容易に予想されるのは、以下のようなことである。たがいに遠慮し合ってコミュニケーションがとれず、仕事を協働する相手を知ることもできない。上司や先輩は後進を指導することすらできず、新入社員はなかなか仕事を覚えられない。これでは日々の仕事において、Z世代が重視するタイパは、著しく低くなってしまうと思うのだが。

 すでに何年か前から、新入社員は年々弱くなっていた。子供のころから大事にされすぎて、少しでも厳しくされたり、意に沿わなかったりすると、すぐに音を上げるようになっていた。その傾向が21世紀誕生組から、さらに一歩進んでしまった。この傾向は各国のZ世代に見られるのか、日本のZ世代に顕著なことなのか、そこはわからない。

 ただ、こうはいえる。ほんとうの意味で子供を守って「生きる力」を身につけさせ、社会を力強く牽引する大人に育ってもらうためには、子供時代に理不尽を排除しすぎないことも大切である、と。

香原斗志(かはら・とし)
音楽評論家・歴史評論家。神奈川県出身。早稲田大学教育学部社会科地理歴史専修卒業。著書に『カラー版 東京で見つける江戸』『教養としての日本の城』(ともに平凡社新書)。音楽、美術、建築などヨーロッパ文化にも精通し、オペラを中心としたクラシック音楽の評論活動も行っている。関連する著書に『イタリア・オペラを疑え!』(アルテスパブリッシング)など。

デイリー新潮編集部

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