女性キーで歌いまくる謎の中年男性YouTuber…「ソプラノおじさん」とは何者か

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ソプラノさんが選ぶ昭和の名曲

 そんなソプラノさんに、昭和の名曲を3曲選んでもらった。

・「渚のバルコニー」 松田聖子 
「この歌は、高い声も低い声もきちんと出そうとすると、技術的にかなり高度なんですよ。わざと、こういう“歌手泣かせ”のメロディーをユーミンさんが、聖子さんに歌わせたんじゃないかと想像します」

・「Romanticが止まらない」  C-C-B
「電子音の打ち込み中心で、ある意味、現代的にも聞こえますが、今聴いても、サウンドもメロディーも、まったく古くないのが衝撃的でした。笠浩二さんのボーカルも好きです」

・「木綿のハンカチーフ」 太田裕美
「無意識に選んだつもりなんですが、ここで挙げた3曲は、どれも松本隆さんの作詞なんですね。やっぱり、松本さんの描く品のある歌詞が好きなんだと思います」

 そんな彼の目下の悩みを尋ねてみると、

「高い声は喉に負担がかかっているんですよ。だから、動画用にスタジオを借りる時でも最大3時間と決めていて、レコーディング前のウォーミングアップにも30分かけるようにしています。

 それと、1本の動画に、1週間かかってしまうことですね。レコーディングの後、ボーカルやインストのレベルを調整する作業にこだわってしまうんですよね。やっぱりミュージシャンをやりたいんでしょうかね(笑)」

 多くの歌唱系YouTuberは、音質が不均一でも気にせずアップして、その分、ゲーム実況やトークのライブ配信などに力を入れたり、他のYouTuberとコラボするなどして、チャンネル登録者数を伸ばすといった施策を取りがちだ。だが、ソプラノさんは、バカ正直にひたすら高音で歌い続ける。その姿は、アスリートにも通じるものがあり、だからこそ、格闘家の石井東吾や、ストイックに歌い続けた本田美奈子.に共感をおぼえたのかもしれない。いつか音楽の神様に見つけてもらえることを祈りたい。

 ちなみに、カラオケ音源も、無許可のものではなく、著作権フリーの音源からクオリティーの高いものを選んでいる(河合奈保子の「デビュー~Fly Me To Love~」のカラオケ音源を探しているとのこと。心当たりのある方は、ソプラノさんに連絡をどうぞ)。

 当面は、地道に80年代を中心とした昭和の歌謡曲やポップスの素晴らしさを伝えていきたいとのこと。彼の活動を見ていると、今は心の支えとなるキッカケも、自分の夢を叶えるための手段でも、YouTubeが大きな位置を占めているということがあらためて実感した。しかも、10代や20代ではなく、40代半ばで、一度夢を諦めた人にも、そのチャンスはあるというのが感慨深い。そんな彼の動画を見ていると、自分もまた何かできるんじゃないかと勇気がもらえる。

(取材・文:人と音楽を繋げたい音楽マーケッター・臼井孝)

臼井孝(うすい・たかし)
人と音楽をつなげたい音楽マーケッター。1968年、京都市生まれ。京都大学大学院理学研究科卒業。総合化学会社、音楽系の広告代理店を経て、'05年に『T2U音楽研究所』を設立し独立。以来、音楽市場やヒットチャートの分析執筆や、プレイリスト「おとラボ」など配信サイトでの選曲、CDの企画や解説を手がける。著書に『記録と記憶で読み解くJ-POPヒット列伝』(いそっぷ社)、ラジオ番組『渋谷いきいき倶楽部』(渋谷のラジオ)に出演中。データに愛と情熱を注いで音楽を届けるのがライフワーク。

デイリー新潮編集部

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