女性キーで歌いまくる謎の中年男性YouTuber…「ソプラノおじさん」とは何者か

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武術インストラクターに触発されて

 そんな彼に転機が訪れたのは、2022年、43才の時だった。

「格闘技系のYouTubeを何気なく見ていたら、ブルース・リーが開発したジークンドーという武術のインストラクターの石井東吾さんという方を見つけたんですよ。

 石井さんは、総合格闘家である矢地祐介選手のYouTubeチャンネルで披露した、ワンインチパンチ(拳を相手につけた状態から相手を突き飛ばす技)で一躍有名になったそうなんですが、調べてみると、ジークンドーを始めたのは18歳のときでした。その後、インストラクターとなってからは生徒がゼロだった時期もあったにもかかわらず、20年以上もの間、誰からも注目されない中でも、修練を続けておられた。その姿に感銘を受けました。

 それに比べ、自分には何もない…昔は、あんなに音楽に一所懸命で“俺は天才かも!?”と思って20年も歌の練習を続けてきたのに、自分がもし歌を辞めずにいたらどうだっただろうかと考えるようになりました」

最も再生された動画は…

 さらに、昭和の楽曲に興味を持ち始めたこともキッカケになったという。

「数年前から、YouTubeで80年代の動画にハマりはじめ、そこで、本田美奈子.さんの『Oneway Generation』のミュージック・ビデオを観たときに、1987年の映像にもかかわらず、まるで今も現役でいるかのように感じたんです。

 当時19歳だった本田美奈子.さんの姿が、永遠に残り続けると考えた時、自分も20年間続けてきた歌をYouTubeに残せればと強く思うようになり、迷うくらいならやってみようと決心しました。

 2023年の2月からボイス・トレーニングを再開したのですが、当初は、徳永さんは勿論、もっと声の低い男性ボーカルもまったく出なくなっていて愕然としました。それでも諦めずに、半年くらいでようやく形になり、2023年の10月、“ソプラノおじさん”として動画の1本目、石川ひとみさんの『まちぶせ』をアップしました」

 以降もほぼコンスタントに“歌ってみた動画”をアップし、この8ヶ月ほどで作成した動画は約60本。その中で最も伸びているのはレベッカの「フレンズ」で、その再生回数は約5万回と突出している。♪どこで壊れたの Ohフレンズ~と伸びやかな女性キーのシャウトを、男性が出しているというのは、ミラクルとしか言いようがない。

「あれは、アップして2週間ほど経ったころに、Mr.Childrenの歌マネをなさっている女性の動画から“おすすめ動画”として僕のも表示されるようになったみたいで、そこから棚ぼた的に伸びたんですよ。性別を逆転したカバーが共通しているからでしょうか(笑)」

 ちなみに、ソプラノさんは、美声の男性ボーカル曲はより安定している。「Romanticが止まらない」(C-C-B)や「君は薔薇より美しい」(布施明)、そして大ファンだった「レイニー ブルー」(徳永英明)などの動画からも、ただの素人ではないことがよく分かる。

 今後も魅力を感じている昭和の女性ボーカル曲を中心にカバーしたいそうだ。

「最初にハマったキッカケは、松田聖子さん。表現力も豊かだし、“キャンディ・ボイス”と呼ばれる声を可愛くタメる部分や若干ハスキーな声質もいい。もちろん、昔からアイドルとして知っていましたが、しっかり歌だけ聞いても、すごい方だと分かりました。

 そして、聖子さんから、松本隆さんの歌詞も素晴らしいと気づきました。そこから、作家の方を意識するようになり、筒美京平さんの曲を探すといった聴き方も増えましたね。

 僕は、ビーイングや小室哲哉サウンドがヒットしていた時に10代でしたが、どこか綺麗すぎてハマらなかったんですよ。その点、80年代の音楽は、新しいものと古いものが交差していて魅力的ですね。作詞家、作曲家、編曲家、歌い手と皆さん分業で、プロを極めているのも素晴らしいです」

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