パリ五輪の開会式で歌う「アヤ・ナカムラ」とは何者か 出演めぐりフランスで賛否両論

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 パリ・オリンピックまで1か月を切りました。フランスでもオリンピック関連の報道は増えていますが、大統領まで巻き込んで議論を呼んでいるのが「アヤ・ナカムラ」という29歳の女性歌手です。

「アヤ・ナカムラ」という名前を聞くと、日本人のような印象を受けますが、実は西アフリカにあるマリ共和国出身の黒人女性アーティスト。幼少時にフランスに移住してきたといい、日本にルーツはありません。

 アヤは本名ですが、ナカムラは彼女が好きなドラマ「HEROS」の登場人物で、空間移動の特殊能力を持つ「ヒロ・ナカムラ」から取ったのだそう。本名はアヤ・ココ・ダニオコさんです。

 彼女に関する議論の発端は、週刊誌L'Expressが2月末に掲載した「アヤ・ナカムラがオリンピック開会式でエディット・ピアフを歌うだろう」という記事でした。特に極右の政治家や政治団体、保守ジャーナリストなどが、彼女のオリンピック開会式出演を批判し始めたのです。

「フランス語で歌っていない」

 元々ファッション系の勉強をしていたアヤ・ナカムラさんは、歌を本格的に学んだことはなく、2014年にFacebookにアップした自作曲「Karma」をきっかけに人気に火が付いた経歴の持ち主です。以降、次々とヒット曲を出したり、他の歌手と共演。中でも代表曲の 「Djadja(ジャジャ)」はYouTubeで9.6億回再生され、2021年にはApple Music Awardsでフランスのアーティスト・オブ・ザ・イヤーも受賞するなど、フランス語圏を中心に海外諸国で人気を博しています。

 そんな彼女の開会式出演が反対されるポイントは大きく3つあり、

・フランス語で歌っていない
・歌手としての資質に疑問がある
・フランスを代表するにふさわしい歌手ではない

 という点です。

 アヤ・ナカムラさんの曲はアフリカの言葉を含む俗語(スラング)や造語が多く登場するのが特徴で、フランス人が聞いても何を言っているのかよくわからないという批判は常々ありました。

 曲も歌声をかなり加工する作風で、「実際の歌唱力はひどい」という意見もよく聞かれます。極右政党・国民連合のマリーヌ・ル・ペン前党首はアヤ・ナカムラさんを「(服装が)下品で...フランス語で歌っていないし、他の国の言語の歌ですらない」とコメントし、ジョルダン・バルデラ現党首はアヤさんが2022年に夫婦間相互暴力に関する罰金刑を受けていることを挙げて「フランスを代表することはできないと思う」とTVフランス5の番組内でコメントしています。

 3月にはLesNatifsという団体が、パリのセーヌ川沿いで「無理だよアヤ、ここはパリだ、バマコ(アヤさんの出身国マリの首都)のマルシェじゃない」という横断幕を掲げ抗議活動も行いました。

 これを受けて「アヤ・ナカムラは人種差別の攻撃の被害者」という擁護の声もあがっています。与党を中心に、スポーツ大臣などの政治家やアーティストが、彼女を支持するコメントを出しました。4月にはマクロン大統領も「(アヤ・ナカムラさんは)適任だと思う。アーティストの選出に当たってはフランスの多様性や自由が守られなければならない」と取材に答えています。

 フランス語の歌手として、音楽プラットフォームSpotifyランキングで1位を取るなど様々な実績もあり、フランス国外での知名度で言えばアヤ・ナカムラさんが出るのが相応しいという声ももちろんあります。

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