「NewJeans」と「松田聖子」が結びついた衝撃 「青い珊瑚礁」を見事に再現した「完璧で究極」なアイドル

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2日間の東京ドーム公演

 韓国の5人組ガールズグループ、NewJeans(ニュージーンズ)が6月26、27日の2日間にわたり東京ドームで開催した初の日本単独公演は日本の音楽市場に大きな衝撃を与えた。NewJeansはデビューから1年11カ月と海外アーティスト史上最速で東京ドーム公演を実現させ日本での人気を証明したが、何よりファンを驚愕させたのが日本の往年の大ヒット曲をカバーしたことだ。【烏丸侑李/メディアコラムニスト】

 筆者は会場でその衝撃を目の当たりにした。公演で盛り上がったのがメンバーのヘイン(HYEIN)がシティポップの代表的な名曲である竹内まりやの「PLASTIC LOVE」(1984年)、次いでハニ(HANNI)が松田聖子の代表曲「青い珊瑚礁」(80年)のカバーを披露した時だった。

 特にスカイブルー柄のストライプシャツに膝下スカートという80年代マリンファッションで登場したハニ(公演初日の衣装)は昭和のアイドルがタイムスリップしてきたかのような錯覚を起こさせ、“NewJeansおじさん”と呼ばれる中高年男性ファンを感涙させただけではなく、会場全体を爆発的な歓声で包みこんだ。

 ハニの「青い珊瑚礁」がそれほどの驚きをもって受け止められたことには理由がある。Y2K(2000年代前後)カルチャーの最先端にいるグローバルアイドルグループとして知られているNewJeansだが、さらに1980(昭和55)年にまで時間を巻き戻し、当時の日本を再現してみせるとは誰も予想しなかったからだ。松田聖子や竹内まりやらが活躍した80年代は広告文化や雑誌「ポパイ」「ホットドッグ・プレス」「メンズノンノ」などが大流行し、サブカルチャーが若者を魅了していた華やかな時代だ。

 これまで多くの歌手が番組の企画で松田聖子をカバーしてきたが、松田聖子のオーラを再現することは非常に難易度が高く、視聴者に失望感ばかりを与えてきた。しかし、ハニは微笑ましい仕草や表情、スカートを少しつまんで揺らすなど個性的な魅力を発揮しながら松田聖子を現代に“復活”させることで、日本が最も幸福でキラキラ輝いていた時代を思い出させてくれた。しかも、髪型やファッションも秀逸で、ハニがショートカット姿にしたのはこの曲を歌うためだったのでは、との声が上がるほど。

4万6000人の爆発的な大合唱

“松田聖子“という40年前の日本の輝かしい集合的記憶を、デビュー2年もたたないK-POPアイドル(ハニ自身はベトナム系オーストラリア人)が、東京ドームで蘇らせるとは驚きでしかない。それが国内のアイドルではなくK-POPアイドルからもたらされたという事実を、国内アイドル産業に携わる大人たちは重く受け止めなければならない。ハニの「青い珊瑚礁」は世界に通用する素晴らしい楽曲が日本に存在していたことを思い出させ、約4万6000人の爆発的な大合唱でドームは多幸感に包まれた。オタクコールに加わった観客の誰もが、ちょっぴり誇らしい気持ちにもなったことだろう。

 それにしても、NewJeansの東京ドーム公演でなぜ“松田聖子”だったのか。それはYOASOBIの世界的大ヒット曲「アイドル」との関係性において吟味すべきだろう。昨年大みそか放送のNHK「紅白歌合戦」でYOASOBIは「アイドル」を披露。そのダンスパフォーマンスチームの一員としてNewJeansが参加していた。両者は、「アイドル」の歌詞に登場する「天才的」「完璧で究極」なアイドルがNewJeansであるという解釈によって強固に結びつく。そして、YOASOBIとNewJeansは「アイドル」という言葉の意味を相互に付与し合うことで、それぞれのスターダムを再強化させていった。

 今回の東京ドーム公演では、「完璧で究極」なアイドルであるNewJeans(のハニ)が、40年以上前に実際に存在していた「完璧で究極」なアイドルである松田聖子を“再発見”。80年代の日本の輝きを再構築するという時空を超えた試みによって、東京ドームに集まった観客をこれまで体験したことのない高揚感と一体感へと誘った。YOASOBIがNewJeansと松田聖子という「完璧で究極」な時代的アイコンを繋げる媒介になっていたというステージの構成自体、所属事務所ADOA(アドア)のミン・ヒジン代表の天才的なプロデュース力のたまものだ。

 そもそも、NewJeansが6月21日に発売した日本デビュー曲「Supernatural」は、日本の古き良き時代を思い出させる仕掛けにあふれている。

 同曲は「ニュー・ジャック・スウィング」という80~90年代前半に米国で大流行した黒人音楽スタイルを取り入れている。この音楽ジャンルは日本でも有名な曲が多く、久保田利伸「GIVE YOU MY LOVE」(1990年)、中山美穂「Vermilion Crime」(同)、杏里「BACK TO THE BASIC」(91年) 、ZOO「Gorgeous」(92年)、SMAP「がんばりましょう」(94年)、MAX「Easy Easy」(97年)などがあり、過去への郷愁を呼び起こす。このため「NewJeansの『Supernatural』はSMAPぽい」という声が、音楽業界から上がるほど。

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