いま最も警戒すべきはAI…犯罪の主役はなぜ「ヤクザ」から「半グレ」に交代したのか

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情報技術の進化

 犯罪に変異を促してきたのは長らく、バブルや円安、円高など「経済情勢の変化」と、法律や条例を用いた検挙や取締りといった「警察による規制」の2大要素だった。

 拙著『特殊詐欺と連続強盗 変異する組織と手口』(文春新書)は、1980年代のバブル期から現在にかけて、カネ目当ての犯罪がどのように変異してきたを追ったものだ。そのトレンドを観察すると、相対的に犯罪収益の「小口化」が進んだことがわかる。

 資産価格が猛烈に値上がりしたバブル期には、あらゆるワルが不動産や株に群がった。うまく転がせば億単位、十億単位の儲けが得られるとあって、違法な地上げ屋や総会屋が過激化の一途を辿り、暴力沙汰も相次いだ。

 当時の主役は、誰が何と言おうとヤクザだった。いかつい本部事務所をデンと構えた指定暴力団の代紋は信用力が抜群で、自らのフロント企業を使って儲けるだけでなく、土地利権の争奪戦ではオモテの不動産会社からも「発注」が舞い込んでいた。

 ところが、1990年代初めのバブル崩壊という経済情勢の激変に、暴力団対策法(暴対法)の施行という「規制」まで重なり、そうした旨い話は消え去ってしまった。

 それと入れ替わるようにして、90年代後半から台頭したのがヤミ金融である。違法な超高金利で暴利をむさぼったヤミ金融だが、主たる獲物は経済的に困窮した多重債務者だった。一度にやり取りされるカネは数万円からせいぜい数十万円である。それを億単位、十億単位に積み上げるには膨大な作業が必要になるが、山口組旧五菱会系の「カジック」という巨大ヤミ金融組織は実に効率よくそれをこなし、一説に1000億円とも言われる収益を上げていた。

 そんな桁外れの荒稼ぎを可能にしたのは、情報技術(IT)の進化だった。カジックが、顧客情報を管理する「データセンター」を構築し、専門のシステムエンジニアまで雇っていたのは有名な話だ。

 そして、警察により駆逐されたヤミ金融が、半グレに代表される特殊詐欺へ変異する過程でもITが生かされたのは、前編記事で指摘したとおりだ。ただし、ITはこの時期になって初めて犯罪に使われ始めたわけではなく、そのルーツは10年以上前にあった。以下は拙著の一節である。

《固定電話で連絡を取り合い、事前に決めた集合場所に向かうだけのやり方では、決まった面々と会うことしかできない。しかしこうした通信手段の進化によって、人と人の出会いの幅は格段に広くなった。チーマーたちは仲間に集合をかけやすくなり、メンバー増強や勢力維持に役立てることが出来た。いみじくも、武闘化した後に台頭した渋谷のチーマーのひとつは「PBB」と名乗ったが、これは「ポケットベル・ボーイズ」の略である(異説あり)。》

《そして通信手段の進化は、男子よりは女子たちの行動により大きな影響を与えたようにも見える。1990年代の「女子高生ブーム」は通信手段の多様化なくしては生まれなかったはずであり、それはすでに「テレホンクラブ」などの影響で広がっていた、女子高生らの援助交際の蔓延をも促した。》

《援助交際(売買春)が違法なのは言うまでもない。ただ、これはある意味で、アングラ経済における若者たちの「自立」と言えなくもない。昔は組織的な動きや稼働女性からのショバ代徴収が暴力団の収入源のひとつになっていたが、ネット空間で神出鬼没の援交JKたちを、オジサンヤクザが束ねられる時代ではなくなったのだ。彼女たちの経済力をうまく利用したのは生態の似通った若い男たちだった。》

 ここで言う「若い男たち」「チーマー」らの一部は後に「半グレ」となり、ヤミ金融や特殊詐欺に手を染めるようになる。

「経済」と「規制」という、犯罪に変異を促す2大要素に「IT」が加わるに従い、ヤクザから半グレへの主役交代も進んだのだ。これら3つの要素のうち、犯罪の変異に最も大きな影響を与えているのはITかもしれない。先進的な技術をうまく使えば、経済の激変にも順応できるし、規制の抜け道を見つけることもできるからだ。

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