犯罪のプロはルフィを「マヌケ」とあざ笑うが…日々進化を遂げる「トクリュウ」の恐るべき実態

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“逮捕要員”であり“捨て駒”でもある「実行役」は匿名性の高いSNSやネットで募り、「指示役」は海外の拠点からITを使って詐欺や強盗を行わせる――こうした「匿名・流動型犯罪グループ」(トクリュウ)は、突然、出現したわけではない。経済情勢と法規制により、さまざまな形で変異してきた犯罪とアウトローたちの歴史をわかりやすく解説した『特殊詐欺と連続強盗 変異する組織と手口』(文春新書)が話題を集めている。

 共同作業で同書を著した「実話ナックルズ」元編集長の久田将義氏とジャーナリストの金賢氏は、地上げ、ヤミ金、半グレから最新の匿名犯罪まで、長年にわたって経済事件や各種の犯罪を取材し続けてきた。同書刊行を機に、あらためてトクリュウの誕生経緯などを寄稿してもらった。(全2回の第1回)

犯罪のプロはリスク管理に敏感

 2009年1月中旬、東京近郊のある都市で1軒の民家が強盗の被害に遭った。押し入った男たちは在宅していた主婦をロープで縛り上げ、金目のものを段ボール箱に入れて持ち去った。主婦が縛られた手首に軽いケガを負っただけで済んだのは不幸中の幸いだった。

 それから約1年半後、犯人グループのひとりが警察に捕まった。その供述によれば、一味は犯行後に内紛を起こしていたという。その理由のひとつは、家人が在宅か否かという「留守情報が間違っていた」ために、犯行の筋書が狂ったことにあった。

 件の民家に多額の現金があることを把握した犯人グループは、家人が出払う「留守情報」を1カ月ほども待ち続け、ようやく犯行に踏み切ったのだという。警察に捕まったとしても、襲った家に誰もいなかったなら窃盗罪で済む。しかし、強盗罪に問われれば刑罰はずっと重くなり、さらにケガでもさせて強盗致傷罪になれば、法定最高刑は無期懲役で、原則として執行猶予はつかない。

 いわゆる「犯罪のプロ」と呼ばれる者たちは、こうした「リスク管理」に敏感なものなのだ。ところがどうだろう。近年、日本全国を騒がせた若者中心の強盗団には、そうした慎重さの欠けらも見られない。

 2023年1月に発生した渡邉優樹、今村磨人両被告らの「ルフィグループ」が典型的だ。レンタカーで現場周辺をうろうろして防犯カメラに記録されていたり、夜間に窓ガラスを割って周囲に気付かれたりと、まったく慎重さに欠けている。そもそも、住人が在宅しているのを知ったうえで押し入ったとしか思えない点が多く、強盗という犯罪のリスクの高さに無頓着なのだ。ある意味で、“劣化した強盗”とも言えなくもない。

 拙著『特殊詐欺と連続強盗 変異する組織と手口』(文春新書)でも詳しく述べているが、多くの犯罪者は刑務所への出入りを繰り返しながら熟練度を上げていく。警察に捕まって取り調べを受け、裁判で開示された証拠の数々を目にしながら、自らの失敗に学ぶわけだ。

 そうした面々が集う刑務所は、さながら「犯罪者の大学」とも言える。また、大した稼ぎにもならない強盗で長期刑を課され、「ムショボケ」の中で腐っていく負け組たちの姿を見て、リスク感覚をみがく。拙著で紹介している「犯罪のプロ」と呼べるような元暴力団組員のコメントを紹介したい。

《刑務所にいるのは、当たり前だが、犯罪がバレて捕まり、有罪判決を下された連中です。警察の捜査と裁判の過程では自分の有罪を立証する数多くの証拠が提示される。つまり、自分がどうして捕まってしまったのかを良く理解している。その失敗に学べば、次は首尾よく切り抜けられるかもしれない》

《それから刑務所の中というのは、非常に退屈なんですよ。口は禍の元です。当たり前ですが、刑務所の中はワルばっかりで、荒っぽいヤツが多い。余計なことを口走ったらどんなトラブルにつながるかわからない。なので、私は同房者ともなるべく話をせず、もっぱら読書をして時間をつぶしていました。それでも、特定の人間と親しくなることはある。自分の失敗に学んで犯罪のノウハウにした人間どうしが情報交換をするわけですよ。そうやって人脈もできます。そうして意気投合した連中が「娑婆に出たら何か一緒にやろうか」となって、犯罪グループがひとつ誕生するわけです》

 しかし「ルフィグループ」をはじめ、相対的に年齢層の若い特殊詐欺・連続強盗団は、こうした経験値の少ない者が多数を占めているように見える。実際、前掲書のために取材したヤクザや犯罪のプロたちは、大々的に犯行を繰り広げながらあっけなく逮捕された渡邉・今村被告らのことを「マヌケ」「どうしようもないバカ」だとあざ笑っていた。

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