「富士山」オーバーツーリズム問題で思い出す…「一度も登らないバカ、二度登るバカ」格言に込められた深い意味

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2つの選択

 7月1日、山梨県側の富士山が山開きをし、多くの登山家・観光客が訪れている。登山家の間では「富士山に一度も登らないバカ、二度登るバカ」という言葉がある。本稿ではこの言葉の意味を登山経験者の視点から書いてみる。

 筆者は大学時代、登山サークルに入っており、1ヶ月のうち2つの週末は1泊2日ないしは2泊3日でテント泊をしていたが、年間の活動のハイライトは5泊6日ないしは6泊7日の夏合宿だった。4人×8のパーティを作り、3ルートから北アルプスの表銀座・裏銀座を経て槍ヶ岳で「あぁ、感動の合流!」というコース作りをした。

 印象に残っているのは悶絶の餓鬼岳から唐沢岳を経て燕岳、大天井岳、赤岩岳、西岳からの槍ヶ岳。山頂直下にある槍ヶ岳山荘で先輩が奢ってくれた缶ビールのウマさったら! この時、ビールのウマさを知り、以来30年間ビールを飲みまくっている。

 翌日槍ヶ岳に登った後、上高地まで降りてテント泊をして松本に戻る。難関エリア、絶景、見事な稜線の様子などを見た末に、素晴らしいデザインの槍ヶ岳を見て最後は上高地で梓川に入り、楽しかった山行(さんこう)を仲間と振り返る。その時、話題は「富士山が8月いっぱいで閉山するまでに登るか否か」になる。我々部員は2つの選択をすることになる。

 A:東京に戻った数日後に富士山行きのパーティを組む
 B:富士山なんてこの経験に比べればつまらない。行かないでいい、と不参加

経験として登るのはいいが

 まさにコレが冒頭で述べた「富士山に一度も登らないバカ、二度登るバカ」の意味である。地方から来た1年生などは富士山に並々ならぬ関心を示し、「行きたい」と言う。そうなると先輩方はこの言葉を言うのだ。ある先輩はこのように言った。

「富士山は日本一高い山だし、ビジュアルも素晴らしい。だが、我々のように登山を愛好する人間からするとはたして登山をすべき山かどうか、ということは分からない。オレは一度登ったが、今の気持ちからすれば『一回でいいかな』というものだ。もちろん、経験として登るのはいいが、正直今回の夏合宿の方が登山としては楽しいと思う」

 その上で、こう付け加えるのだ。

「ただ、登山を趣味とする者であれば、一度は登ってもいいかもしれない。それを拒否するのはバカともいえよう。とはいえ、オレの感覚からすると、二回目を登るような山ではない。それが『二度登るバカ』の意味だ」

 現在の富士山はオーバーツーリズムの問題があったり、ゴミ問題が発生したりするなど、私たちが議論をしていた約30年前より魅力は下がっていると思う。だが、30年前から以下のような「二度登るバカ」の素地はあったのだ。

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