味の素は明治時代になぜ生まれたのか グルタミン酸ナトリウムを開発した日本人学者がドイツで見た光景

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 第1回【世界各国で使用禁止? SNS上で未だ流布する「味の素」悪玉論…味の素株式会社に見解を聞いた】からの続き。うま味調味料「味の素」が体に害を及ぼすという“デマ”について前編では科学的に検証した。実はこの「味の素」、体に有害どころか、上手に活用すれば健康的な食生活に一役買うというのだ。

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 味の素の創業理念は「日本人の栄養改善」だったという。同社のグローバルコミュニケーション部で、サイエンスグループ長を務める吉田真起子さんは、「味の素が目指しているものを説明するためには、弊社が誕生した明治時代に遡ってもらう必要があります」と言う。

 味の素の沿革を確認しておこう。東京帝国大学理科大学化学科の教授だった池田菊苗が昆布出汁の研究を重ね、1907年にグルタミン酸の抽出に成功した。それまで世界中の人々にとっての「味」は甘味、酸味、塩味、苦味の4つだったが、池田はグルタミン酸(正確にはグルタミン酸イオン)の味を5つ目の「うま味」と名づけ、製造などに関する特許を取得した。

 一方の鈴木三郎助はヨード製造などで財を成し、日本の化学薬品業界におけるフロントランナーの一人だった。鈴木は「池田教授が昆布の研究を行っている」との話を聞きつけ、東京帝大の実験室を訪れたこともあった。

 こうした縁がきっかけとなり、池田はグルタミン酸ナトリウム(MSG)の事業展開を鈴木に依頼。そして1909年5月、「味の素」と名づけられた調味料が販売された。

「池田先生がドイツに留学した際、ドイツ人と日本人の体格の違いを目の当たりにして、日本人の栄養状態を良くしたいという強い想いを抱いたそうです。これを原点として、弊社も『おいしく食べて健康づくり』で社会に貢献したいという想いを大切にしています」(吉田さん)

「味の素」で、おいしい減塩

 池田菊苗がドイツに留学したのは1899(明治32)年。その頃に比べると、日本人の体格も欧米人に見劣りしないようになった。「和食」は世界トップクラスの健康食として多くの国から注目を集めている。だが、そんな誇るべき日本人の食文化にも、依然として問題があるという。

 サイエンスグループのマネージャーを務める平林由理さんは「ニュースなどでご存知の方も多いかもしれませんが、日本人は塩分を取り過ぎているのです」と言う。

「そのため毎日の食事では減塩が必要になってきます。ナトリウムの摂取量を減らすことが減塩の目的ですが、同じ1グラムで比べた時、食塩に入っているナトリウムの量に対し、グルタミン酸ナトリウムに入っているナトリウムの量は約3分の1なのです。つまり単純に1グラムの食塩を1グラムの『味の素』に置き換えると、ナトリウムを3分の2減らすことができます。もちろん、味が異なりますので『味の素』をそのまま食塩の代わりとすることはできませんが、食塩を減らしてほんの少し『味の素』を加えると、減塩してもおいしい料理ができます」

 食塩だけを減らすと、味が薄くなりおいしくないと感じてしまう。だが、「味の素」でうま味を加えると、料理の味わいや深みが増し、おいしく減塩することができるのだ。

「せっかく減塩を日常の料理に取り入れようとしても、味が物足りなくて続けられないというケースはたくさんあります。弊社のポリシーは『妥協なき栄養』です。健康的な食生活を送るためにこそ、おいしさに妥協してはいけないという姿勢です。おいしければ、健康的な食生活が長続きするという考えですね」(吉田さん)

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