世界各国で使用禁止? SNS上で未だ流布する「味の素」悪玉論…味の素株式会社に見解を聞いた

国内 社会

  • ブックマーク

化学と公害の関係

 吉田さんは「MSGに関して多くの研究が実施されており、安全性がきちんと立証されています」と言う。にもかかわらず、なぜ「味の素」はこれほど“悪者”になってしまったのか。

 吉田さんと平林さんが大きな影響を与えた可能性を指摘するのは、「化学調味料」という別称と、「中華料理店症候群(チャイニーズレストランシンドローム)」はMSGが原因というアメリカ発の“情報”だ。

 まず化学調味料というネーミングだが、これは1950年代後半に大手マスコミが「味の素」という商品名を使わないために編み出したものだという。そして、当時「化学」という言葉は“科学万能主義”や“夢の未来”といったイメージと結びつき、極めてポジティブなニュアンスを持っていた。

 推理小説作家の木々高太郎は、1936年下半期の直木賞を受賞したことで知られ、今もファンが多い。ところが木々の本業は大脳生理学者で、1958年に本名である林髞の名義で『頭脳―才能をひきだす処方箋』(光文社)を上梓した。

 この著書で林は「グルタミン酸で頭がよくなる」と主張し、当時のベストセラーとなった。当時は「化学調味料をたくさん摂取すれば、どんどん頭が良くなる」と考える人すら珍しくなかったようだ。

ニューヨークタイムズの“誤報”

 ところが、1950年代後半から日本で公害問題が相次いで表面化する。1955年にイタイイタイ病、56年に水俣病、59年に四日市ぜんそく、65年に第二水俣病(新潟水俣病)といった健康被害が明らかになり、これらは後に「四大公害病」と呼ばれるようになった。

 公害は社会問題化し、71年には環境庁が発足。この頃には「化学」や「科学」のイメージは悪化しており、それに引っ張られるようにして「化学調味料」は有害だという流言飛語が飛び交うようになったのだ。

 さらに「中華料理店症候群」という言葉がアメリカから持ち込まれた。60年代、中華料理を食べたアメリカ人が頭痛や体の痺れを訴えたことが原点とされる。68年には権威ある医学論文雑誌が症候群の存在を伝えた。

 ただし論文が掲載されたのではなく、被害を訴える編集者への手紙が紹介されただけだった。その手紙の中で「この症状の原因は醤油、ナトリウムの摂りすぎ、中国料理酒に含まれるアルコール、あるいはMSGの可能性がある」と書かれていた。

 インパクトが大きかったのは、ニューヨークタイムズが68年、中華料理店症候群を「MSGが原因」と報じたことだ。今では中華料理店症候群とMSG摂取の関係は数々の研究で否定されている。だが当時、アメリカを代表する一流紙の報道は影響力が大きかった。その証拠に2024年の現在も、うま味調味料のイメージを悪化させている。

次ページ:うま味成分は同じグルタミン酸

前へ 1 2 3 4 5 次へ

[3/5ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。