母親はコロナワクチン接種後に亡くなった…国を提訴した遺族が語るNHKの「酷すぎる報道」と「二次被害」

国内 社会

  • ブックマーク

NHKは「コロナで亡くした遺族」のように放送

 唯一、返事がきたのが、NPO法人駆け込み寺2020。子宮頸がんワクチン被害者支援をしてきた地方政治家や弁護士らが発案し、その人たちと交流のあった鵜川和久さんが代表となって21年9月に立ち上がったNPOで、日に日に相談件数が増えていた。

「西田さんから連絡が入ったのは、すでに500人以上の死者、被害者が出ていた頃です」と鵜川さん。一連の話をじっくり聞いてくれた。後に、同NPOは遺族の声を集めて「真実を教えてください」という名のドキュメンタリー映画を作るが、西田さんも語り部の一人となるなど、思いを共有していけることになったのは幸いだ。

「ただでさえしんどいのに、2次被害にもずいぶん遭いました」と西田さん。

 SNSに母は即死状態だったと書くと、「即死の定義を知っているのか」「何が目的なんだ」などとコメントされた。23年5月、感染法上の5類に移行したタイミングで、NHKの「ニュースウオッチ9」が人々の思いを紹介するVTRを流したが、取材された同NPOの他のメンバー2人共々、ワクチン接種後に家族を亡くしたのではなく、コロナ感染症で家族を亡くした遺族のように報道された(その後、強く抗議し、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会に諮られ、NHKが謝罪)。

遺族内に分断が起きているケースも

 そのような中、西田さんは予防接種健康被害救済制度(新型コロナワクチンに限らず、予防接種後に起きた健康被害は接種を受けたことによるものであると厚生労働大臣が認めると補償額が支払われる制度)の申請にも力を注ぎ、「すべての申請書類が整ったとき、涙があふれた」と振り返る。時間はかかったが、審査は通った。

 繰り返すが、4月17日提訴の原告となったのは、「母の無念を晴らし、死を無駄にしたくない」「ワクチン被害は母だけの問題ではない」との強い思いからだ。訴状によると、国がさまざまな媒体で接種を呼びかけた際、医療機関から報告されていた接種後の死亡や重篤な副反応の事実を伝えていなかったと主張。公平な情報提供がなされず、憲法13条が保証する自己決定権が侵害されたとしている。

 今回、ありのままを話してくれた西田さんだが、それが可能で、原告にも名を連ねられたのは、父や妹ら遺族間に意識のズレがなかったからだ。「声をあげたい人と、あげたくない人がいて、遺族内に分断が起きているケースも少なくない」と鵜川さん。

 また、一般社団法人ワクチン問題研究会会員で同志社女子大学薬学部特任教授(臨床薬剤学)の森田邦彦さんは、「どのワクチンでも、アナフィラキシーが発生することはある」とした上で、「コロナワクチン接種後の死亡の半数以上は、心血管系の傷害による突然死。(西田さんの母のように)ワクチン接種当日の死亡は、予防接種健康被害救済制度の審査に通りやすいが、最も多いのは接種翌日の死亡で、1ヵ月~1年後に亡くなる例もあり、それらは予防接種健康被害救済制度の対象とはされにくいのが現状」と指摘している。

井上理津子(いのうえ・りつこ)
ノンフィクションライター。著書に『さいごの色街 飛田』、『葬送の仕事師たち』(ともに新潮社)、『絶滅危惧個人商店』(筑摩書房)、『師弟百景』(辰巳出版)などがある。

デイリー新潮編集部

前へ 1 2 3 次へ

[3/3ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。