「定年まで働きたい」新入社員はたったの2割…“会社を辞める若者”に大企業が頭を抱える本当の理由「転職サイトの口コミはダメージが大きい」

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「売り手市場」の影響

 東京商工会議所がまとめた「2024年度 新入社員意識調査」の結果を見れば、若者の会社に対する考え方は一目瞭然だろう。<就職先の会社でいつまで働きたいか>という問いに対し、<チャンスがあれば転職>したいと答えたのは26.4%。<将来は独立(7.6%)><時期をみて退職(5.9%)>と合わせると、まだ入社してまもない新入社員の約4割が“退職”を視野に入れていることになる。さらに、<定年まで>働きたいと答えたのは21.1%に過ぎず、新入社員のおよそ8割が“新卒で入社した企業で定年まで勤め上げるつもりはない”のである。この調査結果に、企業の人事担当者は驚いているのか、納得しきりなのか……。様々な業界の情報を収集・分析する帝国データバンクの藤井俊情報統括部長に、「会社を辞める若者」について企業側がどう考えているか尋ねてみた。

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 そもそも、働く若者の意識がここまで大きく変わったのはなぜなのか。藤井部長はこう解説する。

「最大の理由は、就職や転職が若者にとって有利な“売り手市場”になっていること。その点に尽きると思います。いわゆる“就職氷河期世代”は、新卒で就職活動をしても20~30社落ちるのは当たり前で、正社員として採用されれば御の字という感覚だった。当時の状況を考えれば採用してくれた会社に恩義を感じる社員も少なくなかったはずで、20代のうちに転職を考えること自体が珍しかったと思います。その点、いまの20代はもっとシビアな目で会社のことを見つめている。そして、いまの会社より給料が高くて、福利厚生がしっかりしていて休暇も取りやすく、仕事が面白そうだと判断すれば、躊躇することなく転職に踏み切るわけです。多額の奨学金の返済を抱えていても、意に介さず転職するケースもありますよ」

未来が見通せないリスク

 そこには日本企業の伝統的なシステムのほころびも見え隠れしている。

「いまの若い社員のなかで、定年まで同じ会社に勤めたいと考えているのは少数派だと思います。ただ、それを“愛社精神がない”という言葉で片付けるのは乱暴な気がします。生まれたときからスマホもSNSも存在する若い世代は、新たな技術の発展で社会が大きく変化することを当然と捉えている。実際、大企業で多くの社員が手掛けてきた業務が、3~4年後には全てAIに置き換わる可能性は十分にあります。そうなれば社員の人数は減らされるでしょうから、“終身雇用”という言葉など何の意味も持たなくなる。リスクを回避するために若者が常に転職を考えるのは、むしろ自然なことかもしれません」

 それ以外も、若い社員を転職に向かわせる要素は存在する。

「かつてと比べて“若者の価値”は明らかに高まっています。少子高齢化が進んで若年世代の人数自体が減っているため、どの会社でも若い社員は貴重な存在です。また、職場に新たなシステムやデジタルツールを導入したとして、中高年よりも若者の方が早く使いこなすでしょう。社内イノベーションに取り組む上でも若い発想は不可欠。転職市場でも、長いキャリアと実績を誇るベテランより、デキる(デキそうな)若い人材を欲する企業が増えています」

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