【追悼】「役は人生のように瞬間を生きるもの」 名作「男と女」で揺れる女心を見事に表現したアヌーク・エーメさんの“演技論”

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恋多き女性

 エーメさんは「男と女」の撮影後、バルーと3度目の結婚。映画通りの熱愛だったが、3年後に別れた。

 生涯4回結婚し、いずれも数年で離婚。ギリシャの映画監督との2度目の結婚で1女を授かる。4度目の相手はイギリスの名優、アルバート・フィニーだ。

「男と女」で世界的な名声を得てなお、現実の人生を大切にしたいと欲がない。82年、フランス映画「鱒」の日本ロケに同行。出演者のポーランド人俳優、ダニエル・オルブリフスキーと当時交際中だったためだが、隠れず取材に応じている。

続編が遺作に

「男と女」の50年余り後を描いた「男と女 人生最良の日々」(19年)は、同じくルルーシュ監督のもと、トランティニャン、エーメさん、彼らの子供役らも再集結し、同じ役柄を演じた。

 かつて20年後の設定で「男と女II」(86年)が作られたが、反響はいま一つ。だが、実際の二人が80代後半を迎えた19年の作品は続編の意味を超えていた。

 往年のカーレーサーは高齢者施設に暮らし記憶が曖昧になりつつある。一緒になれなかった彼女への思いを語り続けていた父のため、息子は彼女を捜し出す。再会は実現。二人はいかに愛し愛されていたかを知る。

「役柄と実際の人生の両方で重ねた歳月が伝わってきた。過去を懐かしむのではなく、老いを受け入れ希望も感じさせた」(垣井さん)

 二人は、これが遺作に。

 6月18日、92歳で逝去。

 役の気持ちを整理し過ぎてしまうと、それは本当の感情ではないと考えた。役は人生のように瞬間を生きるもの、とは彼女らしい。

週刊新潮 2024年7月4日号掲載

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