「9ボーダー」は“ボーダー感”が薄過ぎて名前負け 役者陣が浮かばれない「ザンネンな4月期ドラマ」

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 4月期のドラマでもったいない作品多数。すべて放送は終了したので今さらだが、最後まで観たのに書かずにいるのも悔しい。役者陣が浮かばれないという意味での供養と、私の針供養もまとめて総括しておこう。

●「肝臓を奪われた妻」(日テレ)は伊原六花がヒロインを好演、戸塚純貴や桐山漣、櫻井淳子らの面々も、まるで東海テレビの昼ドラ的なけれん味メガ盛りで予想外に笑えた。ただし、トーク番組と謎の抱き合わせで大損こいたのでは? 私もレコーダーがドラマと判断せず1話見逃しちゃったし。配信メインだろうが、変な抱き合わせはやめてほしい。

●伊東四朗主演「老害の人」(NHK BS)はコロナ禍の高齢者たちを描いたドラマだが、全5話って短過ぎや。あっという間に終わってたわ。四朗の老害&たそがれっぷり、夏川結衣と羽田美智子の「隣の芝生は青い」感、三田佳子と高橋惠子の友情に深みがあって面白かったのに。高齢者メインのドラマがどんどん減っとる。ま、コロナ禍の描写は今さら感が強かったけれど、せめて8話は欲しかったなぁ。

●タイトルのフォントが80年代っぽいが、決して昭和レトロではなく、古さとダサさが前面に出てしまった「ミス・ターゲット」(テレ朝)。ヒロインが松本まりかで結婚詐欺師というから期待していたが、「おじさんが脳内で考えるラブストーリー」という残念な印象で終了。まりかも筒井真理子もうらぶれた役のほうがいいなと改めて確認した。サブタイつけるなら「標的にされた男」。八嶋智人が報われない闇金業者を演じ、細かい芸を惜しみなく披露。

●「RoOT」(テレ東)は主演の河合優実と坂東龍汰の探偵バディが良かったし、清濁併せのむ所長・黒田大輔や、芸能&ヤクザの裏社会役者陣(渡辺いっけい・三浦誠己・奥野瑛太)も大好物。ただ地下アイドルの裏の顔ネタにはもう飽きたし、全体的に暗い。画的にも内容的にも光量が足りなくて沈んでしまったような。松尾貴史の落語締めも正解なのかな。いい役者を集めてるのに、嗚呼もったいない。

●さらにもったいないのが、「9ボーダー」(TBS)だ。年代が変わる焦燥感や崖っぷち感を9ボーダーなる言葉で表現したのは秀逸と思ったのに、ボーダー感薄ッ。看板に偽りあり。しかも、メインキャスト6人(川口春奈・木南晴夏・畑芽育・松下洸平・井之脇海・木戸大聖)も、若手俳優・齋藤潤ら脇を固める布陣も、新鮮&手練れで好バランスなのに中身薄ッ。記憶喪失の副社長に生き別れの弟といかにもな設定に、ゆるふわな銭湯再建案。途中で急に入るMVモドキ映像も含めて迷走しちゃった気がする。罰としてTBSにはこの6人で別作品を作ってほしい。ちゃんと中身があるヤツを。

 テレビ局に文句垂れ流しだが、番外編も入れておく。

●「好きなオトコと別れたい」で、床上手なヒモ男に毎熊克哉を据えたテレ東のセンスはたたえたい。令和版寅さんが床上手って最高だ。

 ちなみに視聴断念率が最も高かったのはフジテレビ。ひどくもなく面白くもなく。でも7月期には期待しとく。

吉田 潮(よしだ・うしお)
テレビ評論家、ライター、イラストレーター。1972年生まれの千葉県人。編集プロダクション勤務を経て、2001年よりフリーランスに。2010年より「週刊新潮」にて「TV ふうーん録」の連載を開始(※連載中)。主要なテレビドラマはほぼすべて視聴している。

週刊新潮 2024年7月4日号掲載

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