都知事選に4回出馬、差別用語連発でNHKと最高裁まで係争…雑民党「東郷健」の生き方
政見放送でNHKを訴える
その後も参院選や衆院選、冒頭の都知事選にも出馬した。中でも注目されたのが83年の参院選だ。政見放送での東郷氏の発言を、NHKが差別用語と判断してカットしたのだ。勝手に削除したのは公職選挙法違反だとして、東郷氏は裁判に訴えた。当時を知る新聞記者は言う。
「東郷氏はNHKと国を相手取り、計200万円の損害賠償を求めました。東京地裁の判決が下ったのは2年後の85年4月。地裁は『公選法150条は、NHKなど放送局は録音、録画した政見放送をそのまま放送しなければならないと規定している』とした上で東郷氏の主張をほぼ認め、NHK側に計60万円を支払うように命じました。まさか東郷氏が勝つとは思いませんでした」
もちろん、NHKは控訴した。公選法150条の2に《他人若しくは他の政党その他の政治団体の名誉を傷つけ若しくは善良な風俗を害し又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない》とあるため、社会通念上、不相当なことが明らかなケースについては、放送局が事前に審査し削除することは許されるという主張だった。
「86年3月、東京高裁は『政見放送であっても、社会通念上、不相当なものは、事前審査、削除が緊急避難的措置として許される』として、東郷氏の逆転敗訴となりました。もちろん彼は上告しました」
しかも、この高裁判決の4カ月に行われた参院選に東郷氏は出馬。政見放送ではいつも以上に差別用語を連発したが、NHKはノーカットで放送した。
これまでよりも連発
「それまでの政見放送も同様でしたが、東郷氏は面白がって差別用語を口にしたわけではありませんでした。NHKに消された言葉はいわば自分を卑下した言葉でしたし、被差別者の窮状を訴えるため、あえてそうした言葉を使用したのです。この時も自分が代表を務める雑民党の聾唖者の候補が政見放送でテロップや手話通訳を使うことを拒否されたため、聾唖者とは言わずに、あえて差別的な呼称を使って訴えたのです。もちろん、もう少し上手い表現をしたほうがいいという意見もありましたが、これが彼なりの戦い方だったのでしょう。裁判では負けたけれどもノーカットで放送されたことは、NHKも軌道修正せざるを得なくなったということでしょう。ある意味で東郷氏の勝利だったかもしれません」
90年4月、最高裁の判決は上告棄却、東後氏の負けが確定した。東後氏の選挙は95年の参院選まで続いた。没収された供託金は軽く1億円を超えたという。
「東郷氏も当選できるとは思っていなかったと思います。それでも世の中に訴えなければならないことがあった。今回の都知事選にはYouTubeで稼ぐため、話題づくりのために出馬している人もいるでしょうからね。56人もの立候補者がいますが、東郷氏のように最高裁まで戦う気概を持って立候補した人がどれほどいるでしょうか」