「元大企業の重役は嫌われる」「元商売人は職員に好かれる」 老人ホームで快適に過ごすためのコツを事例から学ぶ

ドクター新潮 ライフ

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自分の居室で“プチ・スナック”

 例えば、ママとしてスナックを経営していたある女性は、仲良くなった他の入居者を自分の居室に呼んで夜な夜な持ち寄りの“プチ・スナック”を開店していました。居室での飲酒を禁止しているホームは多いですが「周囲に迷惑をかけないなら」と消極的に許可するか、事実上、黙認しているところもある。この女性が入居していた施設も「医師や親族からストップがかかったらやめる」などの条件のもと、常識の範囲内で飲酒することを認めていました。

 でもこの方が本領を発揮したのは“プチ・スナック”が閉店した21時以降。仕事が一段落した夜勤の介護士を居室に招いて20~30分ほど“スナック第二幕”を開くのです。もちろん職員が飲むのはお茶ですが、ある日、客役の職員が、この女性がつまみに出してくれるお手製の糠漬けが少し傷んでいるのに気付いたことがありました。この職員が糠漬けを事務所に持ち帰り、看護師や他の職員と協議して出した結論は「認知機能の低下」。以後はご家族と相談した上、彼女の居室にある食品を施設が責任を持って管理するということになりました。このように施設と良好な関係が築けていれば、日々変化していく入居者の心身の状況に応じて柔軟な対応を取ることもできるのです。

恐ろしい孤立のスパイラル

 私は何も、入居者全員に「元商売人」の方たちと同じようにサービス精神旺盛であれと言うつもりはありません。ただ、施設で鼻つまみ者になってしまう方というのは、往々にして一般社会でも同様の評価をされていることが多い。

 気になる方は是非、ご自身の家族との関係を思い返してみてください。ときどき「いずれ施設に入るから、家族に嫌われたっていいんだ」と開き直る老人を目にしますが、実はそういう人が一番危ないんです。家族というのは、自分が他人からどう思われているかを映す最良の「鏡」。施設で嫌われている人は、大抵、家族ともうまくいっていないことが多いように思います。

 それに家族から嫌われている方は総じて、値段だけで選ばれた適当な施設に放り込まれがち。当然、家族もほとんど面会にやってきません。それで職員や他の入居者ともうまくいかないのですから、恐ろしい孤立のスパイラルです。

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