不倫相手と親戚になりそう… 遠距離浮気を楽しんでいた54歳夫を襲った「SNS時代の悲劇」
遠距離の関係
話しているうちに、どんどん彼女に引き込まれていったと勇治郞さんは言う。その豊かな表情や仕草、そして声のトーンなどに魅了された。僕の初恋の相手はあなたなんだよと彼は思わず言ってしまった。
「彼女はうふふと笑って、『年老いたわ』って。そんなことない、今だって魅力的だと僕は断言しました。苦労してきただけあって、なんというのか雰囲気は柔らかいのに妙な迫力があるんですよ。迫力というと違うかな、伝わらないな。並の人生を送ってきたわけではない人がもつ凄さみたいな感じ。僕なんかヤワだから、どこにいても埋没するタイプですけど、彼女はどんな集団に入っても、たぶん浮き立って見えると思う。オーラがあるというか」
彼は彼女の雰囲気を必死になって説明した。それだけ彼女に惹かれたということなのだろう。
半世紀を生きてきたふたり、交わったのは中学時代の3年間だけ。それが35年の時を経て、また交わることとなった。若いあの日より人生を知った大人のふたりは、密会を重ね始めた。
「とはいえ彼女は関西に住んでいますから、そう頻繁に会えたわけではない。僕が出張と偽って行くか、彼女がこちらへ来るか。2ヶ月に1回くらいですかね、会えたのは」
会えば会うほど思いが募る。妻が言うように、子どもたちももう大人に近い。遠目で見守っていればいいと彼は自分に言い訳をしながらミチルさんに会える日だけを楽しみに生活していた。
「一緒になりたい」「あなたのものになりたい」と言い出したミチルさん
「半年ほどたったころかなあ、彼女が『一緒になりたいね』と言ったんです。率直だなあと思いながら、僕自身もそう思っていると言いました。でも次男はまだ成人してない。もう少し待っていてほしいと伝えました。一方で、離婚する覚悟もなかった。美冬はさらに出世していて、子どもたちはそんな母親を誇りに思っている。僕はどちらかといえば家の中では居場所がない。それなのに離婚なんて、怖くてできないと思っていた」
妻を欺き、家族を裏切ってもミチルさんには会いたかった。特にミチルさんがいる関西で会うとき、彼は「素の自分」をさらけ出すことができた。会社でも家庭でも、仮面をつけている自分を意識した。素でいられるのはミチルさんの前だけだと思った。
「ただ、一向に離婚する気配のない僕にミチルはだんだん苛立つようになりました。このままだって会い続けることはできると言っても、『私はあなたのものになりたい。あなたを私のものにしたい』と。時代遅れな言い方だけど、そういう直截な言い方が僕にはうれしかった。情熱をむき出しにして、僕をほしいと言ってくれる人なんていないから」
それなのに離婚を言い出せない。途中から歯車が微妙にずれていったとはいえ、美冬さんはやはり彼にとっては「半身」だったのだ。そうあってほしくもあった。
[2/4ページ]