自分は妻子から疎まれているのでは…不倫に走った54歳夫 「衝撃を受けた」一心同体だったはずの妻の振る舞い

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妻が「別の人間」なんだと気づいた

 万全の家庭だと思っていたのに、もしかしたら自分は家族に疎まれているのではないだろうか。勇治郞さんの胸にふとそんな思いが去来した。そんなふうに考えたらいけないこともわかっていたが、妻との関係をこれでいいのかと思い始めてしまったのだ。

「妻と話し合ったこともあります。次男が学校に通えるようになったとき、『僕の態度はダメだったんだろうか』と聞いた。すると妻は『あなたと私がまったく一致していなくてもいいんじゃない? 子どもたちももう自分で考えられる年齢なんだから、彼らの気持ちを思いやりつつ自立を促していったほうがいいと私は思ってる。あなたはあなたの思うことを率直に言えばいい』って。でもそうすると両親がバラバラな考え方をしていることになる。それはそれでいいと美冬は言うけど、果たしていいんだろうか。あなたこそ繊細なのね、考えすぎよと美冬は笑っていました」

 家族の関係がいつもいいとは限らない。時に考え方がバラバラでも、時に子どもが親から離れていこうとも、もうここまで来ればそれほど心配することはないと美冬さんはどっしり構えている。自分にはああいう「図太さ」はないと勇治郞さんは思った。

「妻に不信感を覚えたわけではないんです。分身というか、自分の半身だと思っていた妻が、昇進の件も含めて、まったく別の人間なんだと改めて気づいた瞬間とでも言えばいいのかな。それで思い出したことがあるんです。僕、子どものころ、家族に名前があるとわからなかった。あるとき祖父母が、母の名前を呼んでいたのでびっくりしたんです。僕に勇治郞という名前があるのと同様、母にも父にも名前があったんだと発見した。たぶん3歳くらいだったと思いますが、それが妙にショックだったんですよ。『僕の母』ではなくて、ひとりの人間だったんだという驚き。同時に少し母が遠くなった。妻にもそのときと似たような、ほんの少し遠くなった感覚がありました」

 夫婦はもともと他人だ。だが勇治郞さんにはその感覚が薄かったのだろう。妻とは一心同体だと思っていたし、それが当然だとも思っていたと言う。

 そして50歳になったとき、勇治郞さん自身と周辺に変化が起こっていく。

妻、そして家庭に “違和感”をおぼえた勇治郞さん。【後編】では、ふとしたきっかけで現れた女性を前に、彼の理性が徐々に崩壊していく様をお届けする。

亀山早苗(かめやま・さなえ)
フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。

デイリー新潮編集部

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