自分は妻子から疎まれているのでは…不倫に走った54歳夫 「衝撃を受けた」一心同体だったはずの妻の振る舞い
狂いだした歯車
強力な二人三脚を組んで家庭を築いてきた勇治郞さん夫婦の歯車が、ほんの少し狂いだしたのは40代半ば、子どもたちが10代半にさしかかったむずかしい時期だった。
「僕らの子ですから、小さい頃から剣道をやらせていたんですが、上の子は中学に入ってすぐサッカー部に入って剣道をやめました。下の子は続けていたものの、中学1年生の途中から学校に行かなくなり、その流れで部屋から出なくなって……。何がいけなかったのか、僕らは何か押しつけたりしたつもりはなかったから夫婦で悩みました。長男も一緒になって考えてくれた。いじめがあったわけでもないらしいし……」
そのころ美冬さんが勤務先で昇進を打診されていると勇治郞さんに伝えた。彼は当然、今はそれどころではないから妻が断ると思ったのだが、実際は妻はすでに応諾していた。
「順位が違うのではないかと僕は思わず言いました。次男のことを最優先にするべきだと。ただ、美冬は『本人が考えるべき。親は見守るしかないでしょ』と。それも一理あるけど、僕としては妻はそういう考え方をするのかと軽く衝撃を受けたんです。『ずっと次男のことばかり考えていたら、かえって彼によくない。親は親で自分たちの生活をするべきだ』と美冬は言いました。でも愛情は伝える、と。理解はできるけど、美冬への気持ちが少しだけ変わった瞬間でした」
妻が投げかけた言葉に「そういう言い方は…」
次男が家にこもるようになったのは、美冬さんの父親の死がきっかけだった。祖父を失って半年以上たってから彼は学校に行かなくなったので、誰もそれがきっかけだと考えなかった。長男がときおり弟の部屋へ行って、少しずつ話すうちにわかったことだった。
「次男は妻の父が大好きだったんですね。もともと感情をストレートに伝えるのがあまり得意な子ではなかったし、引っ込み思案なところもあったから、素直に悲しみを表現できなかったんでしょう。長男が聞いたところによると『僕は弱虫だ』と次男がつぶやいているという。祖父へのきみの気持ちをちゃんと受け止めなかった僕らに瑕疵がある、ごめんねと僕は謝りました。でも美冬は『言いたいことははっきり言いなさい。自分の気持ちは遠慮しないで伝えなさい。生きていく上ではそれが大事なの』と説教していましたね。繊細な次男に、そういう言い方はないんじゃないかと僕がその場で言ってしまったので、美冬はちょっとカチンときたみたいです」
次男は1年足らずで学校に行けるようになった。再び、道場にも顔を出し、先輩や指導陣にも少しずつ相談をもちかけるなどの成長を見せた。
「結局、美冬の言うことが正しかったようです。次男は、妻とごく普通に話していましたね。僕は腫れ物に触るような態度をとりすぎたのかもしれない。僕なりに考えて接していたんだけど、それがいいとは限らないことがわかって、やはりちょっとショックだった」
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