「動物たちは機能を失っても楽しそう」 獣医師・北澤功が考えた「老いにおびえる人間とどちらが幸せなのか」

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「誰かさんが苦労させるから」

 動物園に勤務後、東京都大田区に五十三次どうぶつ病院を開院し、『妄想お金ガイド パンダを飼ったらいくらかかる?』などユニークな著書を持つ獣医師の北澤功さん。そんな彼が、たくさんの動物と触れ合う中で学ぶ「老い」に対する向き合い方とは?

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 顔に怪しいマスクを着け、爪に何かを塗っている風呂上りの妻。「最近爪に艶がないのよね」。そのあと、先に丸いピカピカでボコボコの球体の付いたY字型の器具で顔をゴロゴロ。その器具を使うと重力に逆らえず下がった顎から頬を上げてくれるらしいのです。わが家には似たような器具がいつのまにか増えています。

「またそんな無駄なもの買って~」。僕が小さな声でつぶやくと、妻の眉間に2本の線。「誰かさんが苦労させるから」。妻の怒りが僕に向かいます。爪の艶も、頬が下がるのも、全部僕が悪いらしい。「いやいや、昔と変わらず美人だよ」。こんな言葉じゃぜんぜん怒りが収まりません。それどころか、逆に火に油を注いでしまった、まずい。こんな時はとっておきの一言。「怒るとマリオネットになっちゃうよ」。怒っている時の口の横のしわが、マリオネットの口のように見えるのです。この一言で、妻は怒りの顔だけはやめました。

病気でクヨクヨすることがない動物たち

「ピー太、おはよ~」。診察室のドアを開ける僕。犬のピー太は前足を器用に使いながらスイスイと僕に近づいて、僕の前で“ジャンプ”します。残念ながら前足が少し上がるだけ。これがピー太のあいさつ。ピー太は、自力ではオシッコをすることができません。朝のあいさつを終えると、僕はピー太を抱き上げ診察台に乗せカテーテルを尿道に挿入、膀胱を優しく圧迫、オシッコを強制的に出してあげます。ピー太は下半身まひになり早7年、元気に生きています。今回は飼い主さんが法事のためしばらく預かることになりました。

 僕がピー太の世話をしていると、雪さんがゆっくりゆっくり近づいてきて、僕の足にスリスリ。これが彼女のあいさつ。検査入院中の雪さんは19歳のマルチーズです。心臓と肝臓が悪く、目は白内障のため全く見えていません。見えていないはずなのに、彼女には僕のいる場所が分かります。

 この子たち(といっても、お爺ちゃん、お婆ちゃんですが)、とっても元気です。ワンちゃんやネコちゃんたちにとっては、後ろ足が動かない、目が見えないことなど全く問題のない様子。後ろ足が動かなければ、前足で動き、目が見えなければ、音や匂い、他の五感を使って、元気に暮らしていきます。病気でクヨクヨすることはありません。

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