「ようやくプロポーズの約束を果たせる」 作家・逢崎遊が語る、8歳年上の恋人の“容赦ないダメ出し”

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「小説家にならないと結婚できない」という私の言葉に…

「正しき地図の裏側より」で小説すばる新人賞を受賞し、2024年に作家デビューを果たした逢崎遊さん。7年に及ぶ下積み生活を支えてくれたのは、8歳年上の恋人だったという。狭い部屋で肩を寄せ合い、創作論をぶつけあった二人が手繰り寄せた未来とは?

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 小説家デビューを志した7年前から書き続ける生活を優先していたため、稼ぎも貯金もほとんどなかった。作品は年にいくつも書いていたが、どれも賞にかすりもしない。ただ、その当時出会った恋人だけは私の作品を読んで「絶対いつかはデビューできる」と真顔で言った。

 8歳上の彼女はコロナ禍で仕事を失ったばかりだった。お金が無ければ精神的にも余裕がなく結婚も難しい。でも、小説家になれるという確信だけは互いにあったから、「小説家にならないと結婚できない」と口にしてしまった私の言葉に、彼女は「分かった」とうなずいてくれた。それは相当な覚悟だったに違いない。その上で、作品を読む度に「絶対デビューできる」と言い続けたのだから、言葉の重みが違う。

普段はおしとやかなのに、容赦なく添削を

 私が書いて、彼女がそれにふさわしい賞を探し、作品の感想を私に伝える。その感想を元に話し合い、私はまた書き直す。100枚単位の原稿用紙を全て捨てて一から書き直すことは日常茶飯事で、一度完成した原稿ですら彼女の校閲で真っ赤に染まった。神奈川の家賃3万円の狭い部屋に彼女が転がり込み、そこでひたすら意見を交わした。私たちの書斎はロフトで、本棚で防音の為の壁を作って、二人でノートパソコンの小さな画面を共有しては、来る日も来る日も作業をしていた。

 二人して燃えていた。そして本人は自覚していないが、彼女には校閲に加え編集の才能もあった。さながら専属の編集者のようだ。

 彼女は普段おしとやかで、決して歯切れのいい発言をするタイプではない。作品を校閲する傍ら「私の言うことって全部正しくないかもしれない」と弱気にすらなる。が、いざ原稿を目の前にすると「これは違う」「伝わりづらい」「ここいらない」「説明し過ぎ」と容赦なく添削をしてくる。初期の頃なんて、文末を「~た。」と「~る。」で繰り返す、という謎のマイルールにこだわる私と、それをやめさせたい彼女とで1週間くらいバチバチにけんかした。原稿用紙1枚の中に「だから」を13回も自覚なく多用しまくって泣かせたこともあれば、Webから応募できる新人賞の締め切り5分前でも「まだ!」と言って作品を磨く手を止めない彼女にこっちが泣かされたこともある。キマった、と思った一文に赤を入れられて何度険悪な空気になったことか。

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