LGBTQ+パレードの最後尾に“謎の集団”が タイと「2つの国」の知られざる関係性

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「LGBTQ+は無理やり徴兵されている」

 たとえばタイには、国軍の弾圧を逃れたミャンマー人が多く暮らしている。タイに密入国したミャンマー人も少なくないが、彼らは正式に働くことができないため、低賃金の不法就労で糊口をしのいでいる。デモの列のなかにいたミャンマー人、Mさん(30)はこう話す。

「私はバンコクの大学に通う留学生。だから顔を出してこのデモに参加できる。でもこの抗議行動に出たことで、ミャンマーにいる両親が捕まってしまう可能性はあります。私の周りには、軍事政権から逃れてきたミャンマー人がいっぱいいます。彼らは軍事政権に抗議したいけど、怖くて顔を出せない。国軍に両親を殺害され、山を越えてタイに逃れてきた人もいる。タイに観光ビザで入国し、そのままオーバーステイになっている人も多い。皆、金がないから、狭いアパートに共同で暮らしている。タイにいるミャンマー人には行き場がないんです」

 Mさんと同じ留学生のLさん(25)はLGBTQ+だった。

「ミャンマーのLGBTQ+は無理やり徴兵されているんです。前線に送られる人も多い。死んでもいい、って軍事政権は考えているんですよ」

今もイスラエルへ出稼ぎに行くタイ人たち

 そして、イスラエルには約2万6千人のタイ人出稼ぎ労働者がいた。イスラエルで得られる給与は、タイの約2倍。人手不足が深刻なため出稼ぎ労働者を優遇し、他国と違って出稼ぎの条件に語学試験がない。労働ビザがとりやすいこともあり、タイ人にとってイスラエルは出稼ぎ労働に行きやすい国だった。

 しかし、現在では危険がつきまとう。ハマスの襲撃に遭い、40人以上ものタイ人が死亡、負傷している。デモにはイスラエルで死亡したタイ人への保障を要求する団体も加わっていた。

 イスラエルに出稼ぎに行ったタイ人の多くが、いちど帰国している。しかし、最近になって、再び出稼ぎに行くタイ人は徐々に増えている。4月からイスラエル中部のペタク・ティクヴァでシェフとして働くYさん(45)もそのひとり。メールによる取材で、こう綴っていた。

「タイよりも賃金が高いからイスラエルでの仕事に戻ることにしました。1ヵ月に約9万バーツ(約36万円)ぐらいもらえます。紛争が起きたときは2、3回、攻撃があったので、そのたびに仕事仲間と逃げました。もちろん家族は心配してくれていますが、お金を貯めないといけません」

 このやり取りでは、あまり緊迫しているような感じはなく、笑顔の写真も送ってくれたのだが……。

 一見、華やかで明るいバンコクのプライドパレード。その最後尾につづく集団は、思わぬタイの現実を象徴していた。

澤野綾香(現地ジャーナリスト)

デイリー新潮編集部

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