「今でも忘れられないボツになったキャラクターは…」 「相棒」のシナリオライターが語る登場人物との別れ

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せっかく生み出した登場人物との別れ

「相棒」「特捜9」「遺留捜査」など人気作品の脚本を手がける、シナリオライターの川崎龍太さん。彼いわく、登場人物の名前を考える作業は特別なものだという。だけどせっかく書いたシナリオがボツになることもある。そんなときシナリオライターの胸によぎるのは……。

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 シナリオライターという職業柄、名前をよく考える。架空の企業名や学校名、地名などもそうだが、圧倒的に多いのは登場人物の名前だ。数えてみたら、この1年だけでも49人の登場人物に名前を付けていた。

 冷凍保存された遺体を巡り、警察を翻弄する不老不死の研究者の名前は「小田嶋博史」。

 殺された娘の敵を取るため、ぬいぐるみに猛毒ガスを仕掛けて復讐を企てる母親は「持永登紀子」。

 1年間の昏睡から覚めると夫が殺されていて、自身も事件の記憶を失っていたが、やがて犯人が自分だったと判明する妻は「井吹 華」。

 名前は親から子どもへの最初のプレゼントなんて言われたりするが、わが子ほどではないにしても、名付け親として登場人物には思い入れがある。名前を付け、生い立ちや性格を考えて、セリフを一つずつ紡いだ登場人物は同志のような存在だ。

 だからシナリオがボツになった時は穏やかではない。せっかく生み出した登場人物が映像化されないのは無念だし、シナリオでは存在していたはずの彼らが遠くの世界へ行ってしまうような喪失感もある。残念ながらキャリアを重ねると、実現しなかった企画が増えていき、それだけ登場人物との別れも多くなる。

今でも思い出す“自分によく似た”キャラクター

 今でもたまに思い出すのは10年ほど前に書いたシナリオの主人公だ。世界チャンピオンを目指すプロボクサーで、名前は「志村悠太」。ある日、婚約者の「遠山真琴」が交通事故に遭い、意識不明の重体に陥ってしまう。一命を取り留めたものの検査の結果、真琴の頭部に銃弾があることが発覚。悠太が彼女の過去を探っていくと、小学生の時に銃撃事件に巻き込まれていたことを知る。さらに真琴は頭に被弾した影響で予知夢を見るようになっていたことが判明して……というシナリオだった。低予算映画の企画として書いたが結局実現はしなかった。

 他の登場人物よりも悠太に思い入れがあるのは、自分の心情を投影していたからだろう。腕一本で何者かになろうともがいている中、恋人との結婚を控える悠太の状況は、このシナリオを書いていた10年前の私と重なっている。シナリオで食べていけるのか。こんな自分が結婚なんかして大丈夫なのか。当時の私は未来に漠然とした不安を抱いていて、映画というエンターテインメントでそれを表現しようとした。つまり、志村悠太は私の分身だった。

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