“消えキャラ”が極端に少ない「虎に翼」 過去の「朝ドラ」は“出会いと別れ”の繰り返し

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笹山と穂高の役割

「笹寿司」の大将で傍聴マニアの笹山(田中要次)も帰ってきた。1932年だった第8回、明律大女子部時代の寅子と東京地裁で知り合い、直言の無罪判決が出た第25回にはお祝いとして特上にぎりを持ってきてくれた。寅子が高等試験に合格した第30回にも寿司を届けてくれた。

「凄いよ、トラちゃん」(笹山)

 当初は傍聴マニアの変人とも思われていたが、実はすこぶる善人だった。

 1942年だった第35回、寅子が弁護士として法廷デビューを飾ると、笹山はそれも見届けた。

「あの女学生だったトラちゃんがこんなに立派に……」

 しかし、祝いの寿司はなかった。戦況が悪化し、米もネタも入手できなくなっていたからだ。この朝ドラは戦死や戦火以外でも戦争のもたらす不幸を描いた。

 寅子と笹山の再会は1949年だった第60回。戦災孤児の道男(和田庵)が笹寿司で働くことになった。笹山は人がよい から不自然さやこじつけ感は全くなかった。笹山は消えてはならない人物だった。

 明律大同級生のチェ・ヒャンスク(ハ・ヨンス)も戻ってきた。ヒャンスクは1938年だった第28回に朝鮮へ帰国したが、寅子の上司・汐見圭(平埜生成)と結婚し、1948年の第53回から再登場している。今は差別と偏見から逃れるため、香子と名乗って日本人を装っている。第14条の下、不自由から解放される日は来るのか。

 キャラの中で一番の曲者・穂高教授とも寅子は第39回で別れたが、1947年だった第47回に再会する。民法改正審議会が行われていた司法省(現・法務省)内だった。

 穂高の評価は分かれているようだが、嫌われ者役を買って出ていると見ている。第39回では寅子の妊娠を勤務先の雲野法律事務所に明かし、半ば強引に寅子を辞職に追い込んだ。もっとも、当時の寅子は気負い過ぎ、倒れている。しかも穂高は「弁護士の資格は持っているのだから、仕事への復帰はいつだってできる」と説いた。穂高は女性が出産と育児を終えた後も、希望するなら働くべきだと考えていたに違いない。

 だが、寅子は意味を取り違えた。穂高に手紙を書いた。「弁護士を辞めます。ご期待に添えず申し訳ございません」。穂高は大学の空き教室でその手紙をいつまでも淋しそうに眺めていた。

 第49回で穂高は司法省入りしていた寅子に家庭教師に転職することを勧める。唐突だった。

「この道に引きずり込み、不幸にしてしまったのは私だ。ずっと責任を感じていた」(穂高)

 寅子は「はて」と首を傾げ、「先生は何も分かってらっしゃらない!」と猛反発。「私は好きでこの場に戻ってきたんです」と宣言する。

 その直前まで寅子は周囲から「謙虚になった」「大人になった」と言われていた。穂高もそれを感じ取り、カンフル剤を与えたのだろう。なにしろ穂高は老獪であるうえ、寅子に女学校時代から接し、その気性を熟知しているのだ。

 消えキャラの少ない朝ドラはヒロイン以外の人物像の想像も膨らむから面白い。

高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ)
放送コラムニスト、ジャーナリスト。1990年にスポーツニッポン新聞社に入社し、放送担当記者、専門委員。2015年に毎日新聞出版社に入社し、サンデー毎日編集次長。2019年に独立。前放送批評懇談会出版編集委員。

デイリー新潮編集部

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