“消えキャラ”が極端に少ない「虎に翼」 過去の「朝ドラ」は“出会いと別れ”の繰り返し

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梅子とよねが再登場した理由

 第59回で母親・はる(石田ゆり子)が亡くなり、寅子は気落ちしていた。そこに姉のような存在である梅子が再来するのだから、よく計算された構成である。

 梅子は1938年だった第29回、寅子たちと2度目の高等試験(現・司法試験) を受ける直前に姿を消した。のちに梅子から寅子に届いた手紙には、徹男が若い妾の元山すみれ(武田梨奈)と再婚するため、離縁を通告されたと書かれていた。

「トラちゃんたちなら立派な弁護士になれる。私のような弱い女性を守ってあげてください」(梅子の手紙)

 梅子は幼かった光三郎の手を引いて大庭家を出たものの、10日も経たぬうちに連れ戻されていたことが第62回で分かった。帰宅直後に徹男が倒れたため、そのまま10年以上も世話を強いられた。家長が全権を握っていた旧民法を象徴するような酷い話である。

 徹男の遺言書には「すみれにすべての財産を遺贈する」と書かれていた。遺贈とは法定相続人の親族以外に財産を贈ること。しかし、新民法では配偶者や子供ら一部親族が、遺産を部分的に遺留分として請求できる。

 この物語のテーマは憲法14条の「法の下の平等」なので、相続問題は場違いとも思えるが、実際には深く関係している。旧民法は長男の単独相続だったが、新憲法下の新民法では夫婦平等、複数の子も平等。男女も平等。無駄のない脚本である。

 同じ第62回、寅子はやはり同級生の山田よね(土居志央梨)と轟太一(戸塚純貴)がやっている轟法律事務所に梅子を連れてゆく。寅子とよねは1942年だった第39回に決別した。ともに働いていた雲野法律事務所を寅子が妊娠によって退職したからだ。よねは寅子に絶交を言い渡した。

 再会は1949年になっていた第56回。寅子がスリの少年を追って行った先に轟法律事務所があった。第62回で寅子はよねに対し「ごめんね、また来て。梅子さんをどうしても会わせたくて」と言ったものの、半分は口実に違いない。よねと和解する糸口を掴みたいのだ。

 よねも内心では寅子と再びつながりたいはず。1936年だった第25回、共亜事件で贈賄罪に問われていた寅子の父親・猪爪直言(岡部たかし)が、無罪になった際のよねの顔が忘れられない。「よし!」。我が事のように興奮していた。

 逆に寅子と決別した第39回、自分が寅子の妊娠を明律大教授の穂高重親(小林薫)より後に知ったときの顔は蒼白だった。

 よねは寅子の妊娠や出産をとがめたのではないだろう。天涯孤独の身で、寅子は初めて出来た同志だと考えていたのだ。それなのに真っ先に相談されなかった。裏切られた思いだったのではないか。

 よねを見ていると、『ブラックジャック』を思い出さずにはいられない。誰よりも法律知識があり、弱者救済という崇高な理念も持つ。しかし、資格はない。今後も寅子がブレてしまいそうになったときの座標軸であり続けるはずだ。

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