「逃げ恥」も教材に…名門男子校ではどんな性教育が行われているのか

ライフ

  • ブックマーク

危険回避のための性教育はもう古い

 存在自体が男女共同参画社会の趣旨に反するかのようにいわれることすらある男子校。しかし実際には意外にも、男子進学校でこそ先駆的な性教育やジェンダー教育が行われていることを『男子校の性教育2.0』(中公新書ラクレ)にまとめた。

 現在の中年以上の世代が受けた性教育は、生殖のしくみのような極めて理科的なものであったはずだ。1990年代以降でも妊娠や性感染症の不安を煽るような性教育が行われる傾向があった。ある男子校の家庭科教員はそれを「家庭科で食中毒や肥満を防ぐことばかり教えるようなものじゃないですか」と指摘する。

 現在では「包括的性教育」といって、性に関する人権意識や、性的多様性、健康で幸せな性生活を実現するための心構えまでを含めた教育が行われている。男子のみという環境の弱点を補うため、女子大や女子校とのコラボレーションで実施される授業も多数あった。

 昨今の男子校で行われていた性教育の授業で共通して扱われていたキーワードをいくつか紹介しよう。

「SRHR(Sexual and Reproductive Health and Rights)」は日本語にすれば「性と生殖に関する健康と権利」だ。快楽を得ること、子どもをもつことなど、性や生殖について決める権利が、本人たちにあることを意味する。妊娠するかしないか、出産するかしないかは、女性に決定権がある。現在の性教育の基本概念である。

「性的多様性」についても学ぶ。「LGBT(レズ、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)」という区分のみならず、性的指向と性自認の多様性を意味する「SOGI(ソジやソギと読む)」という言葉も重要語句だ。男子校においても確率的に考えれば同性愛者やトランスジェンダーがいるはずで、彼らの権利も守られなければいけないことがくり返し説かれる。

アダルト動画を見るときの正しい作法は?

 2023年7月に不同意性交等罪が定められたこともあり、「性的同意」もホットなテーマだ。手をつなぐ、キスをする、プライベートゾーンに触れる、セックスをする……。各段階において明確な同意が必要であるというのが一般的な性的同意の考え方である。関連して「デートDV」についても話題は広がる。

 相手が望んでいないことをしてはいけないのは、法律なんてもちだす必要もなく、ひととして当たり前のことである。が、「付き合っているんだからいいだろ」と性行為を強要したり、相手が酔っているどさくさにまぎれてわいせつな行為をする悪いやつらがいるから、性的同意の重要性が強調されるようになった背景がある。

「マスターベーション」についても多くの時間を割いていた。自分の性欲を自分でコントロールする前向きな意味合いがあるというメッセージとともに、最近では「セルフプレジャー」とも呼ばれており、自分のペースで性的な快感を求めることは豊かな性生活の一部であることも伝えられていた。

 ただし注意事項もある。「床オナ」と呼ばれる間違ったマスターベーションが流行しているらしい。床や布団に性器をこすりつけるオナニーのこと。この強い刺激に慣れてしまうと、女性の柔らかな性器の中で射精ができなくなる「膣内射精障害」になる危険性がある。それが男性不妊の一因にもなっている。

 また、性的な興奮を得るためにアダルトコンテンツを視聴することにも警鐘が鳴らされていた。あり得ないファンタジーを映像化したものがアダルト動画の類いなのであり、決して真に受けるなということだ。ある講師は「4~5人で『こんなのありえねー』などと言いながら見るのが正しい鑑賞法」と伝えていた。

次ページ:性教育やジェンダー教育で人権意識が育つ

前へ 1 2 次へ

[1/2ページ]

メールアドレス

利用規約を必ず確認の上、登録ボタンを押してください。