3期目入りの「モディ首相」は台湾に接近…印中対立激化で大規模軍事衝突の可能性も

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経済改革路線への復帰が必須

 インフラ開発の障害となっている土地収用法の改正も避けて通れない。モディ政権は2014年、国会に改正案を提出したが多数派工作に失敗し、廃案になったという経緯がある。

 専門家は「国民の支持を取り戻すためには経済改革路線への復帰が必須だ」と主張するが、いずれも2期目までのモディ政権で実現できなかった難題だ。モディ首相の求心力が低下している状況下で、過去10年間で果たせなかった懸案を解決するのは困難だと言わざるを得ない。

 むしろ、逆の動きが強くなる可能性がある。仏投資銀行ナティクシスは「連立を組む政党への配慮から(モディ政権は)保護主義的な傾向を強める」と予測している(6月11日付日本経済新聞)。そうなれば、インド経済が停滞するばかりか、海外からの投資も減少する。インド政府が描く高成長シナリオは「絵に描いた餅」になってしまうだろう。

 経済成長に暗雲が立ちこめている中、インドには外交面でも頭が痛い問題がある。中国との間の国境対立に収まる兆しが見えてこないことだ。2020年4月に中国がインド北部のラダック地方に侵入して以来、国境での対立は5年目を迎え、現在も約10万人の兵士がにらみ合いを続けている。

台湾に接近も…緊張高まる中印関係

 雪解けを求めるインドに対し、中国は好戦的な姿勢を崩していない。インドのアルナーチャル・プラデーシュ州も南チベットの一部として領有を主張しており、緊張は高まるばかりだ。

 米国のキャンベル国務副長官は12日「中国政府は領土問題に関して(インドに対して)柔軟性を示すことは非常に難しい」との見解を示している。

 中国の陸地での攻勢に対し、インドは海上面から巻き返しを図ろうとしている。昨年5月には、インド海軍とASEAN加盟国が南シナ海で初の合同軍事訓練を実施し、中国に対する牽制を強めた。今年5月下旬にも、南シナ海で中国と領有権を巡って紛争中のフィリピンに戦艦3隻を派遣し、4日間の日程でフィリピン海軍と合同訓練を実施した。

 インドは中国が「自国の一部」と主張する台湾とも関係を強化しようとしている。モディ氏は自身の3期目入りを祝した台湾の頼清徳総統に対して、「台湾とより緊密な関係を築くことを楽しみにしている」と謝意を表明した。中国政府の反発をよそに、台湾が最大10万人のインド人労働者を雇用する可能性がある労働力供給協定に署名もしている。

 世界で最も人口の多い2つの国のつばぜりあいは今後、大規模な軍事衝突に発展する可能性がないとは言えなくなっている。日本を始め国際社会はこの問題にもっと関心を持つべきではないだろうか。

藤和彦
経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。

デイリー新潮編集部

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